高齢者や認知症患者に多い「てんかん」を見逃さない!5つのポイント

高齢者や認知症患者に多い「てんかん」を見逃さない!5つのポイント

てんかんというと、小児もしくは若い人に多いと思われがちです。しかし、高齢者及び認知症を主に診察している当院では、高齢でてんかん発作を生じる方がたくさん見えます。

最近の研究では、実はてんかんの発症は、高齢者で最も多いことが分かってきています。高齢者のてんかんは、けいれん等を伴わないことが多く、認知症などを併発することもあり、見過ごされやすいものです。今回の記事は、月に1,000名の認知症患者さんを診察する長谷川嘉哉が、「高齢者のてんかん」についてご紹介します。

1.高齢者てんかんは小児より多い

米国のHauserらの報告では、「高齢者のてんかん発症率が、小児の2~3倍に及ぶ」ことを明らかにしました。てんかんの発症率は、乳幼児期に高く、小児期を通じて低下し、成人で最も低くなるが、60歳を超えると逆に急激に上昇することが明らかになりました。

2.認知症とてんかん発作の関係

高齢者の中でも、認知症の患者さんはさらにてんかんの発作の頻度が増えます。実際に、私は月に1,000人の患者さんを診ていますが、かなりの数の方がてんかん発作を起こすため抗けいれん剤を処方することがあります。

多くの報告では、アルツハイマー型認知症のてんかん発作発症率は10~20%とされていますが、私の外来での印象では、10%弱の印象です。

ちなみにアルツハイマー型認知症においては、大脳の側頭葉の内側にある「海馬」という部位の神経の変性が起こります。海馬はてんかんとのつながりが深い脳の部分で、ここを起点とするてんかんは側頭葉てんかんとしてあらわれます。したがって、アルツハイマー型認知症の人が起こすてんかんは、側頭葉てんかんが多いといわれています。

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海馬はてんかんにも認知症にも大きく関わっています

3.高齢者てんかんの特徴

高齢者のてんかんは、全身を強直させたり、けいれんするような症状でないことが特徴です。半数近くが、複雑部分発作(意識障害を伴うもの)で非特異的であいまいな発作が多いのです。

3-1.症状の特徴

具体的には、前兆が少なく、発作症状としては不注意、無反応、健忘などのあいまいな症状です。介護者からすると意識を失った、もしくは意識障害が生じたと感じるようです。

発作後は、朦朧とした症状が残ることが特徴で、数時間から数日にわたることもあります。


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数日間、ぼーっとしていたり朦朧としている場合はてんかんの可能性があります

3-2.側頭葉てんかんとは

複雑部分発作が側頭葉から起こることを側頭葉てんかんと言います。前兆に続いて、患者さんは一点を凝視し発作に入っていきます。その後、自動症と呼ばれる無意味な動作が反復されます。
側頭葉てんかんで最も特徴的な自動症は、

  • 口をペチャペチャさせたり、舌をツパッツパッと鳴らしたりする口部自動症
  • 大量に涎を流すことも、喉をごくごくと飲み込むように動かす
  • 衣服をまさぐるように手をもぞもぞする
  • 同じ動作を反復する
  • 「はい、はい」などと言葉を発したりするタイプも少なくない
  • 周囲を歩き回わる徘徊自動症も

発作中に名前を呼ぶと返事をしたりするので、少し意識があるように見えますが、実際は周囲の世界から完全に遮断されています。したがって、介護者からの「意識を失った」という訴えから、診断されることもあるのです。

4.診断のためには問診が第一

てんかんを併発する高齢者が、てんかんを疑って受診されることは殆どありません。医師が、患者さんや家族からの訴えで診断することになります。

4-1.病歴

突然の朦朧状態や健忘を反復することがてんかん発作の特徴です。したがって、医師の質問として、「突然反応が無くなることはないか?」「一点を見つめてボーッとしていることはないか?」「同じ動作を繰り返していないか?」を患者さん、家族、介護者に行うことが重要になります。

4-2.可能なら脳波も?

てんかんが疑われれば、脳波検査を行います。睡眠時脳波検査が必須で、検査1回で60%、2回で80%の確率で異常を検知できると言われています。しかし、高齢者、さらに認知症患者さんに特殊な検査室で睡眠時脳波検査を行うことは相当に困難です。私の外来では、診断的治療としてまず抗けいれん剤を使用。効果があれば、てんかんと診断して治療を継続します。

5.治療

複雑部分発作には、カルバマゼピン、バルプロ酸およびフェニトインの 3 薬を使用します。

高齢者の場合はバルプロ酸を使用します。高齢者の場合、通常に比べ量を少なく処方することが大事です。成人であればバルプロ酸600~1,000㎎を使用しますが、高齢者では半分の量でも効果があります。またバルプロ酸は錠剤以外にもシロップもあることが助かります。

複雑部分発作に最も効果があるのはカルバマゼピンですが、ふらつき感が強く高齢者に不向きです。また、フェニトインも眠気、記銘力障害といった副作用があり高齢者に不向きなのです。

なお、投与後は、3〜6か月に1回は血液検査を行い、バルプロ酸の血中濃度を測定することが重要です。

6.まとめ

  • てんかん発作は、小児の病気でなく高齢者に最も多い病気です。
  • 認知症患者さんでは、さらに頻度が上がります。
  • 症状は、けいれん発作等と伴わない突然の朦朧状態や健忘が特徴です。
  • 治療は、高齢であるためバルプロ酸を使います。
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