若年性アルツハイマーになったら・公的補助を最大活用する全知識

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National Pension

数年前のことになりますが、ある大学病院から私のクリニックに男性患者さんが転院してきました。

病名は、「若年性アルツハイマー」。電車で1時間以上もかけて大学病院に通院していたようです。当時、まだ58歳。ご家族としては、少しでも、最新の治療を受けることができるのなら、遠くてもかまわないという気持ちだったのでしょう。

しかし、病状が進行し通院の負担が重くなってきたため、自宅近くの当院に転院されてきたのです。初診の日に私がまず驚いたことは、患者さんが「自立支援医療」の手続きをしていなかったことです。

さらに、認知症の進行のため会社を退職されていましたが、「障害年金」も申請していませんでした。年齢から言って医療費の自己負担は3割。仕事もできずに、生活は大変であったと思います。最新の医療を誇る大学病院ですが、患者さんの権利や生活までは目が届かなかったようです。

認知症専門外来では、医学的な診断治療だけでなく、社会資本の利用までを含めた対応が必要です。そのため、私自身認知症専門医としてファイナンシャルプランナー資格を取得しました。そんな視点から、若年性アルツハイマーの皆さんが使うべき社会資本(=公的補助・公的サービス)についてご紹介します。

1.   若年性アルツハイマーとは?

この章では、同じ”アルツハイマー”という言葉が使われている、高齢者発症のアルツハイマー型認知症と若年性アルツハイマーの違いを説明します。

1-1.若年性アルツハイマーの特徴

65歳未満で発症するアルツハイマー型認知症を言います。若年性と高齢者での認知症の病理的な違いはないため、ともに診断名に“アルツハイマー”がついています。

しかし、病気の勢いが全く違います。高齢者のアルツハイマー型認知症は、年単位で進行することが多いのですが、若年性アルツハイマーはときに月単位で進行することさえあるほど急激です。散歩に出て迷子になったり、自宅のトイレの場所が分からなくなって失禁してしまうほどに進行することも、若年性アルツハイマーにみられる症状です。

Into the fog

徘徊は、五里霧中の中を歩いているような感覚だそうです

1-2.若年性アルツハイマーの頻度

アルツハイマー型認知症のうち4-5%が若年性アルツハイマーとされています。2009年に発表された若年性アルツハイマーの調査によると、患者数は調査時点で4万人弱。 男性の方が女性よりも多く、推定発症年齢の平均は約51歳です

1-3.若年性アルツハイマー型認知症の原因

原因については、一部に遺伝性をもったものも報告されていますが、9割以上は明確な遺伝性を持っていません。つまり、誰でも若年性アルツハイマーにはかかる可能性があるのです。

1-4.若年性アルツハイマーの問題

頻度的には、高齢者のアルツハイマー型認知症に比べて少ない若年性アルツハイマーですが、病気以上に大変なことがあります。

それは日々の経済的問題をどうするかです。急激に症状が進行するため、職場でも問題になることが多く、退職を勧められるケースも多々あります。しかし、一家の大黒柱がいきなり職を失ってしまうことは大問題です。

私の患者さんでも、あまりに仕事を覚えることができないため、同僚がノイローゼ気味になり退職を勧告された方がいらっしゃいます。結局、退職を受け入れたのですが、住宅ローンを滞納、銀行による自宅の競売後、自己破産、生活保護となってしまいました。

2.   診断される前に会社を辞めてはいけない理由とは?

若年性アルツハイマーになった場合に、生活を支える社会資本として大切なものがサラリーマンの方であれば傷病手当であり、自営、サラリーマンに関わらないものでは障害年金になります。ここで重要なことは、サラリーマンの方であれば医療機関で診断される前に会社を辞めてはいけないということです。その理由をここではお伝えします。

2-1.サラリーマンは傷病手当が受けられる

これはサラリーマンの方が病気や負傷の為に働く事ができず、賃金の支給を受けることができない場合に、健康保険から標準報酬日額の2/3が支給されるものです。医師が ”就労不能”と判断すれば申請が可能となります。これは、働けないと判断されればすぐに申請が可能で1年半の間受給が可能です。サラリーマンであれば、1年半、傷病手当を受給し、切れるころに障害年金を受給すれば、何とか生活はできるものです。

2-2.障害年金は厚生年金加入中が有利

自営業の方も、生活が苦しくなって、年金の掛け金を払わなくなる方がいらっしゃいますが、何とか払い続けた状態で医療機関を受診しましょう。障害年金の支給要件で最も大事なことは、“年金に加入している間に、障害の原因となった病気やケガについて初めて医師または歯科医師の診療を受けた日(これを「初診日」といいます。)があること”となっているからです。

多くの患者さんが、症状の急激な進行と忙しさのために、医療機関受診前に退職勧告を受けいれてしまうことがあるのです。退職後に、国民年金に加入することもできますが、厚生年金に比べ支給額が激減します。ちなみに障害年金は、症状が固定したと判断されれば発症から半年から1年半たてば申請することができます。

3.障害年金受給に立ちはだかるハードルとは

私は、認知症の専門医として、障害年金の書類を記載する時がもっとも緊張します。申請が通れば、患者さんは長年に渡って障害年金を受給することができます。しかし、却下されたからといって、症状を重く書き直して再申請はできません。ある意味、“一発勝負”の緊張感があるのです。それだけ重要な障害年金ですが受給にあたっては抵抗勢力が存在するのです。

3−1. 医師の「障害年金」に対する無知

Doctor or physician writing diagnosis and giving a medical prescription to female Patient

診断書一つで受給の可否が決まります

医師は、日々多くの診断書を作成します。しかし、学生時代から医師になってからも一度たりとも社会資本の勉強はしたことがありません。ですから、医師に『障害年金を受給できませんか?』と質問しても、根拠もなく『これぐらいでは申請できないのでは?』と煙に巻かれてしまうことが結構あります。そのうえ、障害年金の重要性も知らないため、障害年金申請書類の内容が実際の患者さんの症状より軽く記載されていることもあります。申請が却下された時に、あとで交渉できるように、申請前に必ず、コピーを取っておくことをお勧めします。

3−2. 窓口の担当者の対応

障害年金の申請書類を社会保険事務所に貰いに行っても、窓口の担当者の判断で、『障害年金の適応でない』と言われて、諦めてしまうご家族がいらっしゃいます。受給の可否は、窓口の担当者が決めるわけではありません。

3−3.受給までかかる時間

障害年金の受給の可否が決定されるには、最低でも3か月はかかります。大黒柱が働けなくなって、障害年金を当てにしているご家族のことを考えると一日でも早く、受給してほしいと思います。日本年金機構は、老齢年金についての問題が指摘されていますが、障害年金受給についても問題を抱えているようです。

4.障害年金申請をプロに任せてしまおう

障害年金の申請を、プロである社会保険労務士にお願いすることもお勧めです。私の患者さんが社会保険労務士に申請を委託されたことがありました。正直、私自身は認知症の障害年金の書類作成には慣れています。しかし、社労士さんと相談した結果、私自身も細かい指摘を受け勉強になりましたし、患者さんも無事に受給することができました。

5.医療費負担を減らすためには

若年性アルツハイマーの患者さんが医療機関にかかると自己負担が馬鹿になりません。定期的に行う画像診断でも3割負担のため、数千円から数万円の負担になります。

そのうえ、認知症の薬はとても高価です。一般に使われるアリセプトも5㎎であれば1錠300円程度。若年性アルツハイマーの場合は10㎎まで増量することもあり、その薬価は500円程度。3割負担であれば、薬代だけでも数千円の負担が毎月続くわけです。

そんな時には、以下の2段階で医療費の負担を減らしましょう。但し、これらの対応方法は、市町村でかなり違いがあるため、以下の情報を基本にそれぞれで確認をお願いします。

【障害者自立支援法】

比較的症状が軽い段階から申請が可能です。通院して認知症の治療にかかる費用の一部を国が負担する制度です。自立支援医療では、自己負担が1割になります。さらに所得などにより、ひと月あたりの負担額に上限が設けられています。

【精神障害者手帳】

症状が進行した場合は、精神障害者手帳の申請が可能になります。手帳がもらえると、重度障害者医療費受給者証も受給され、級によって一部負担もしくは無料になります。

*残念ながら、医師の側からアドバイスされることは殆どないので、積極的に情報を集めてから、医師にお願いすることが大事です。ちなみに、その際に『自分は精神科でないので記載できない』という医師がいますが、認知症の場合、記載については精神科以外の医師でも可能です。

6.まとめ 不幸の最小限化

若年性アルツハイマー病は発症する患者さんの年齢と症状の急速な進行から経済的なフォローが重要です。仕事上のトラブルが起きてきても、すぐに退職してはいけません。自営業者の方でも年金だけは払い続けましょう。そして、年金を加入している状態で確定診断を受け、症状進行時には障害年金受給を申請しましょう。サラリーマンの方であれば、傷病手当を積極的に利用しましょう。さらに年齢的にも医療費の自己負担軽減のために障害者自立支援・障害者手帳の利用は重要です。これらの制度を使うことで、病気になった不幸を少しでも最小化することができるのです。

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