専門医が指摘!「脳ドックでは認知症を発見できない」理由

専門医が指摘!「脳ドックでは認知症を発見できない」理由

外来をやっていると、「脳ドックで異常がなかったので認知症は心配ありません」という報告をいただいたり、「認知症が心配なので脳ドックを受けた方がよいでしょうか?」という質問を受けることがあります。

そこで自分が「脳ドックで認知症は見つかりませんよ」とお伝えすると、皆さん驚かれます。

脳ドックは、脳の状態を各種画像撮影機器などを使用して、客観的に判断するものです。費用は数万円程度、時間は検査だけでも数時間〜半日程度かかることが一般的なようです。そこまでして検査をして「問題ない」と言われたのに、認知症になる可能性は回避されていないのです。安心したのにショックを受けるかもしれません。

では「脳に異常がないはずなのに、認知症は別」とはどういこうとでしょうか。

今回の記事では、毎月1000名の認知症患者さんを診察する長谷川が「脳ドックで分かること、分からないこと」、そして「認知症の早期発見のための認知症ドック」についてご紹介します。

1.脳ドックとは?

脳ドックは、脳梗塞や脳出血で倒れることを未然に防ぐために行うものです。そのため多方面から脳の病気の兆候や危険因子を探ります。脳ドックの検査項目は、実施施設によって多少の違いがありますが、中心となるのはMRIとMRAによる画像診断です。そのほか、頸部エコー心電図検査血液検査などを行って、多方面から脳の病気の兆候や危険因子を探ります。

任意の健康検査になりますから、健康保険の補助は受けられず費用の設定は各医療機関に任せられています。

1-1.頭部MRI

磁気と電磁波によって縦横斜めあらゆる方向から脳の断面画像を写し出す検査です。MRI検査では発症間もない脳梗塞の病変や小さな梗塞などもはっきりと映し出せます。

ただし、血管が詰まりかかっている場合でも、詰まって脳梗塞にならないと異常として検知することはできません。理論上、MRIを撮影して異常がなくても、検査直後に脳梗塞を発症する可能性はあるのです。

脳ドックで問題がなかったからといって、安心せずに脳血管障害の発生防止に努めましょう。

Magnetic resonance imaging of the brain
MRIはあらゆる角度から詳細に断面画像を撮影することができます

1-2.頭部MRA(脳血管撮影)

MRIと同じく磁気共鳴という物理現象を利用して、血管を立体画像として映し出す検査です。動脈硬化が進行して血流が細くなっている血管を発見することで脳梗塞を早期発見できます。

また、動脈瘤を発見することでクモ膜下出血を早期発見できます。MRIと違い、MRAで異常がなければ2年間は脳梗塞や脳出血を発症する可能性はかなり低いと言えます。

脳血管障害の早期発見のためには絶対に欠かせない検査なのです。時々、人間ドックでMRIだけ撮影してMRAは検査されていない方がいらっしゃいます。必ずMRAも含めたいものです。

Magnetic Resonance Angiography of brain
MRA検査による脳血管投影画像

1-3.頸部エコー検査

一定方向に強く放射されて直進性が強い超音波を頚部などに当て、反射したエコーを画像化するものです。脳血管の動脈硬化や閉塞、狭窄などがわかります。

Woman getting an ultrasound scan
頸動脈エコーでは、頸動脈壁の厚みや血管の壁内にできるコレステロールの塊(プラーク)を見つけることができます

1-4.心電図

心電図によって心房細動をチェックすることができます。

心房細動は不整脈の一種でこれが出現している場合は、血栓が作られやすくなっています。これが血流に乗って脳に達すると、脳梗塞の一種である心原性脳塞栓症を突然引き起こすことがあります。

読売巨人軍の終身名誉監督である長嶋茂雄さんがこのケースに当たります。

1-5.血圧測定

高血圧は脳卒中(脳梗塞、脳出血)の最大の危険因子となりますので、予防のためにも血圧の測定は欠かせません。


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1-6.血液検査

血液検査では、脳卒中の危険因子となる高血圧や糖尿病などの全身の病気や血液成分の異常を調べることができます。

1-7.眼底検査

眼球内の奥の部分(眼底)の状態を専用のレンズで観察する検査のことで、高血圧や動脈硬化にともなう血管の変化などがわかります。

2.脳ドックで分かる疾患は?

脳ドックでわかる病気を以下に挙げたので参考にしてみてください。

  • 脳梗塞
  • 脳腫瘍
  • 脳出血
  • 脳動脈硬化
  • くも膜下出血

脳血管障害は、脳出血などの血管が破れた場合脳梗塞などの血管が詰まった場合とで種類が大きく分かれます。特にMRA検査を行うと、その両方を前もって知ることができます。

3.脳ドックでアルツハイマー型認知症は見つからない

時間と費用をかけて行った脳ドックの検査はいずれも、アルツハイマー型認知症を否定するものではないのです。

アルツハイマー型認知症では、そもそもMRIで見つかる脳梗塞や、MRAで見つかる血管の狭窄や動脈瘤も認めません。もちろん、頸部エコー検査や心電図で異常を認めることもありません。

脳ドックでいくつもの検査をして異常がないと、「認知症も心配ない」と思いがちですが、認知症のリスクは評価できないので注意なさってください。

※発症原因第2位の血管性認知症は、脳血管障害の影響で引き起こされます。脳血管障害を予防することで、間接的に血管性認知症を防ぐことにはなります。

4.認知症を発見するためには、認知症ドックとは?

ならば、認知症を早期発見するためにはどうすればよいのでしょうか? 画像検査は頭部CTで十分です。認知症診断においては頭部のMRIもMRAも必要ではありません。CTだけで脳の萎縮や病変を知ることができるからです。CTはMRIに比べて検査時間が短く、患者さんの負担も少ないというメリットがあります。

X-ray image of the brain computed tomography
CT検査は、手軽に短時間でできるので患者さんの負担が少ないのです

認知症を診断する際には、画像主体ではなくあくまで質問形式の検査で脳の機能を調べます。機能テストを行ったほうが、見当識、記銘などのどの部分が衰えているかよくわかるからです。

そのためには、前頭葉機能を調べるかな拾いテストFAB(Frontal assessment batter)リバーミード検査を行います。側頭葉機能を調べるためには、MMSE(Mini Mental State Examination)改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を使うと早期発見ができます。

以下の記事ではかな拾いテストとMMSEについて詳しく解説していますので、参考になさってください。

5.脳ドックを受けたほうがいい人とは

ならば、脳ドックを受ける必要はないのでしょうか? 確かにアルツハイマー型知症の発見には役立ちませんが、一定のリスクを持つ人たちには、脳ドックの受診をお勧めしています。具体的には下記の4つのポイントに当てはまる人が脳の病気を発症するリスクが高いとされています。

  • 高血圧、高コレステロール、肥満
  • 味が濃い食べ物が好き
  • 魚介類をあまり食べない
  • 50代以上だけど脳の検査を受けたことがない
  • 血縁者に脳卒中を起こした人がいる
  • 物忘れが多い
  • 慢性的、あるいは一過性の頭痛がある
  • 手足のしびれや顔面麻痺がある

このような方は、一度脳ドックを受診して脳血管障害の可能性をチェックしておくと良いでしょう。

6.まとめ

  • 脳ドックでは認知症は見つかりません
  • 認知症の早期発見のためには、認知症ドックや物忘れドックが必要です
  • ただし、いくつかのリスクを持つ方は、脳ドックを受けるべきです。
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