認知症の診断に前頭葉機能検査FABが不可欠な理由を専門医が解説!

認知症の診断に前頭葉機能検査FABが不可欠な理由を専門医が解説!
2018-07-09

病院で、認知症専門医に「前頭葉機能検査をしてみましょうか?」と言われることがあります。その中でもFAB(Frontal Assessment Battery)は前頭葉機能検査の一つで、認知症の診断に使われる検査方法の一つでもあります。

ではこのFAB検査とはどういったもので、何がわかるのでしょうか。実はクリニックによっては行われていないケースもかなりあります。しかし、できればぜひ行ったほうがいいのです。なぜなら側頭葉の機能検査だけではわからないケースもあるからです。方法はそれほど難しくありません。

今回は、月に1,000名の認知症患者さんを診察する認知症専門医長谷川嘉哉が、この前頭葉機能検査の意味と方法、それによってわかることについて解説します。認知症かも、と思われた方はぜひ参考になさってください。

1.前頭葉機能とは?

ブロードマン脳地図
前頭葉、前頭前野の場所 出典:http://juken-com.net

前頭葉機能は、多くの場合前頭前野(前頭前皮質)の機能を指します。実際に、前頭葉機能検査の場合も前頭前野の働きを見ています。

前頭前野はヒトをヒトたらしめ,思考や創造性を担う脳の最高中枢であると考えられています。この脳部位はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を担っています。

前頭前野は系統発生的にヒトで最もよく発達した脳部位であるとともに,個体発生的には最も遅く成熟する脳部位です。一方老化に伴って最も早く機能低下が起こる部位の一つでもあるのです。認知症においては、記憶を司る側頭葉機能より先に、前頭葉機能が低下してきます。そのため、早期に認知症を診断治療するためには、前頭葉の機能検査を第一優先すべきなのです。

次章から実際にどのようなテストを行うか実例をご紹介します。

2.前頭葉機能検査① かなひろいテスト

以下の検査は、“かな拾いテスト”といって簡単にできる検査です。とても簡単なので、市町村の集団検診などで用いる場合は有効です。ゲーム感覚で行えますので、トライしてみてください。

【かな拾いテスト】

次のかな文の意味を読みとりながら、同時に「あ、い、う、え、お」を拾いあげて、○を付けて下さい。制限時間 2分

むかし あるところに、ひとりぐらしのおばあさんがいて、としをとって、びんぼうでしたが、いつもほがらかに くらしていました。

ちいさなこやに すんでいて、きんじょの ひとの つかいはしりをやっては、こちらでひとくち、あちらで ひとのみ、おれいに たべさせてもらって、やっと そのひぐらしをたてていましたが、それでも いつもげんきで ようきで、なにひとつ ふそくはないと いうふうでした。

ところが あるばん、おばあさんが いつものように にこにこしながらいそいそと うちへかえるとちゅう、みちばたの みぞのなかに、くろいおおきな つぼをみつけました。

「おや、つぼだね。いれるものさえあれば べんりなものさ。わたしにゃ なにもないが。だれが、このみぞへおとしてったのかねえ」と、おばあさんは もちぬしがいないかと あたりを みまわしましたが、だれも いません。

「おおかた あなが あいたんで、すてたんだろう。そんなら はなでも いけて、まどにおこう。ちょっくら もっていこうかね」こういって おばあさんはつぼのふたを とって、なかをのぞきました。

 採点は、正解の個数から間違いの部分(「あ、い、う、え、お」以外に〇をつけた)を引いたものが点数になります。

結果:正解 (     )点/61点

年代ごとに、以下の点数より低い場合は前頭葉機能の低下が疑われます。

【年齢別境界値】

80歳代:8文字 70歳代:9文字 60歳代:10文字

50歳代:15文字 40歳代:21文字 30歳代 29文字

20歳代 30文字

この数値より低い場合は早急に、認知症専門医を受診しましょう。

※上記のかな拾いテストはダウンロードしてお使い頂けます。下記リンクをクリックしてください。

かな拾いテスト PDF(練習問題つき)

Senior woman with her elder care nurse
早期のほうが治療効果が高いです。変だな、と思ったら検査をお勧めします

3. 前頭葉機能検査② FABテスト

FABテストは、「Frontal Assessment Battery at bedside」と呼ばれる前頭前野の機能をみる検査であり、臨床で広く使用されている検査の一つです。広く使用されている理由としては、短い検査時間で可能なこと、特別な用具を用いないで施行できることなどがあげられます。具体的な方法をご紹介します。テストは6つの課題で構成されています。

3-1.概念化課題(類似性)

Q.これから言う2つのものは、どこが似ているか考えて答えてください。

①「バナナ」と「みかん」は? -(果物、食べ物)
②「テーブル」と「椅子」は? -(家具)
③「チューリップ」と「バラ」と「雛菊」は? -(花、植物)

方法:この課題では「バナナとみかんはどこが似ていますか?」というような質問をします。この質問に対して被験者には口頭で答えてもらいます。

対象領域:正式な回答を答えるためには、言語による「概念操作」の能力を必要とするので、左半球の前頭前野の活動を反映すると考えられます。

3-2.知的柔軟性課題(語の流暢性)

Q.「かきくけこ」の「か」から始まる言葉をできるだけたくさんあげてください。ただし、人の名前や地名などはいけません。

方法:「“か”からはじまる言葉をできるだけたくさんあげてください」と質問し、口頭で答えてもらいます。

対象領域:自発的に言葉を作り出す領域である左半球の前頭前野の活動を反映すると考えられます。

注意点:同じ単語の繰り返しや変形、人の名前や固有名詞は正当としません。制限時間は60秒10語以上答えられたら終了です。

3-3.行動プログラム課題(運動プログラミング)

指示①:「わたしがすることをよく見ていてください。」検者自身の右手を、手のひらを上にして机の上に置き、
(1)自分の左手をグーにして、自分の右手のひらをたたく
(2)次にその左手をパーにして(手刀で)、自分の右手のひらをたたく、
(3)最後に、左手をパーのままで、手のひら同士を合わせる(拍手)
以上の連続動作を、3回くり返す。


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指示②:「次にあなたの番です。同じことをやってみましょう。まず、私と一緒にやります。次に一人でやっていただきますのでよろしくお願いします。それでは一緒にやってみましょう」
被験者と一緒に(1)~(3)の連続動作を3回繰り返す。

指示③「今度はひとりでやってみましょう。」

方法:自分の左手の掌を右手で“グー・手刀・掌”の順番に叩いてもらいます。“hand-fist-palm”と呼ばれています。

対象領域:前頭葉の中でも高次運動野の機能(運動プログラミング)を見るものです。

注意点:指示②が理解できない場合でも、そのまま指示③に進みます。指示③の段階で、途中で間違えた場合はそこで終了とします。

3-4.反応の選択課題(葛藤指示)

指示①:「私がいちど指でポンとたたいたら、続けて自分の指で2回ポンポンとたたいてください。」
検者がポン・ポン・ポン(1-1-1)とタップしたら、1回ごとに被験者に続けて指をタップさせます(2-2-2)。 これを3回くり返します

指示②:「こんどは、私が 2 回指でポンポンとたたいたら、自分の指で1回ポンとたたいてください。」
検者がポンポン・ポンポン・ポンポン(2-2-2)と指をタップし、1回ごとに被験者に続けて指をタップさせます(1-1-1)。これを3回くり返します。

指示③:「では、今の約束を使って、私に続いて、自分の指でたたいてください。」
1-1-2-1-2-2-2-1-1-2(合計10回の連続動作)

順番で指をタップし、1 回ごとに被験者に続けて指をタップさせます(2-2-1-2-1-1-1-2-2-1)。

対象領域:ルールに従った運動の発現は前頭葉の高次運動野と前頭前野内側面、どのように指を叩いたのかの短期記憶も必要になりますから前頭前野の機能全般を見ていると考えられます。

3-5.GO/NO-GO課題(抑制課題)

指示① :「私が1回指でポンとたたいたら、同じように1回ポンと自分の指でたたいてください。」
ポン・ポン・ポン(1-1-1)とタップし、1回ごとに被験者に続けて指をタップさせます(1-1-1)。これを3回くり返します。

指示②: 「私が2回指でポンポンとたたいたら、自分の指は動かさないでください」
ポンポン・ポンポン・ポンポン(2-2-2)と指をタップし、これを3回くり返します。
この場合被験者は何もタップせずにいることが正解になります。

指示③:「では今の約束を使って、私に続いてやってみましょう」
1-1-2-1-2-2-2-1-1-2(合計10回の連続動作)

の順番で指をタップし、1回ごとに被験者に続けて指をタップさせます(1-1-0-1-0-0-0-1-1-0)。

方法:指を1回ポンと叩いたときは被験者も同じように“1回”、2回ポンポンとたたいた時には被験者は“叩かない”というルールを設けます。

対象領域:反応の選択課題で必要となる脳の領域のほかに、行動(指運動)を抑制する両側半球の前頭前野の機能(行動抑制)を見ることになります。

3-6.把握行動課題

指示:「私の手を握らないでください」と言って以下の動作をします

①検者は被験者の正面に座ります。
②被験者の手のひらを上に向けて、両手を机の上にのせます(片麻痺の場合は片側で構いません)。
③検者は、何も言わずに被験者の目を見て、自分の両手を被験者の手のそばによせ、手のひらを合わせるようにそっとつけます。
④手を握らないでじっとしていられるか数秒間観察します。

対象領域:行動の抑制機能を検査する課題であるため、両側半球の前頭前野の機能を反映するものと考えられます。

注意点:もし被験者が検者の手を握ったら「私の手を握らないでください」ともう一度指示してから同じ動作を繰り返します。

FABテストの用紙は当グループホームページにて用意しています。

FABテストシート

4.FABテストの評価方法 

FABテストは、合計点数18点が満点です。12点以下の場合は、前頭葉機能の低下と判断します。但し、若年性アルツハイマーは65歳未満の発症で診断されます。65歳以下の場合、15点以下でも前頭葉機能の低下を疑います。

通常、FABテストで前頭葉機能を測定し、同時に、MMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)で側頭葉機能を測定します。MMSE検査は時間や場所の把握、計算能力などをテストするものです。

MMSE検査の方法は以下の記事で解説しています。

FAB検査とMMSE検査の両方を行うことで認知症のよりはっきりした程度がわかるのです。

4-1.FABが低下してMMSEも低下

FABもMMSEも共に低下している場合は、認知症と診断されます。なぜなら認知症は、まず前頭葉機能が低下してから、側頭葉機能が低下するからです。

4-2.FABが低下してMMSEは正常

側頭葉機能が維持されているため認知症の診断はされません。しかし、前頭葉機能が低下しているため早期認知症の診断がされます。この段階では、日常生活も維持されており、一見認知症とは思われません。

4-3.FABが正常で、MMSEが低下

通常の脳の機能低下ではこのようなことは起こりません。患者さん自身が検査に非協力的であることが疑われます。病院という公的な場所にきて、検査に非協力的な場合は、前頭側頭葉型認知症(ピック病)も鑑別する必要があります。

5.治療

抗認知症薬は早期であればあるほど効果があります。前頭葉機能・側頭葉機能がともに低下している場合は認知症ですから、通常の抗認知症薬を使用します。さらに前頭葉機能だけが低下している場合も積極的に抗認知症薬の使用をお勧めします。

認知症になった場合の医師の見極め方については以下の記事で解説していますので参考になさってください。

6.まとめ

  • 物忘れが疑われた場合は、側頭葉の機能だけでなく前頭葉の機能も検査しましょう。
  • 前頭葉機能の検査は、かな拾いテストやFABテストがお勧めです。
  • 前頭葉機能の低下が疑われた場合は、抗認知症薬の積極的使用が望まれます。
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