高齢者の万引を放置しないで!認知症治療で改善可能性【医師が解説】

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Portrait of Caucasian senior driver eating lyulya kebab in lavash

当院には、よく警察から電話が入ります。通常のクリニックであれば警察から電話が入ることなど相当に珍しいでしょう。しかし、当院の認知症患者さんは本当に本当にいろいろなことをされます。迷子になって保護されたり、車の危険運転で捕まったり、ときには火の不始末で亡くなった方も…。そのなかでも最近、急増しているのが万引きです。

どうしても万引きをしてしまう患者さんがいます。家族にとっては「病気の症状の一つ」と思われてるかもしれませんが、なかには病院にもかからず「人に言えない」「隠しておきたい」「なかったことにしたい」と思い、対策を何もされていない方も相当数いると思われます。しかし何もしなければどんどん悪化する可能性があるのです。

相談しようにも相談先がない。警察も冷たい。包括支援センターも病気だと思ってない。認知症かもしれない。もし認知症なら早期であっても検査でわかります。ですのでまずは家族が病気かもしれないと思うことが大事です。

そのような方のために、今回の記事では、認知症患者さんが万引きを起こしてしまう理由、そして対策をご紹介します。

1.高齢者万引きの特徴

警察庁によると、2013年1月から11月までに万引きで摘発された65歳以上の高齢者は2万5821人。2012年は1年間で2万8600人余りが摘発されました。驚いたことにこの数字は若者の摘発数より多いそうです。

高齢者の万引きはパンや惣菜など比較的安価な食料品が多く、盗んだ商品の平均額は2,600円だったということです。警察庁は「高止まりの背景には『安いものだから』『発覚しても代金を支払えばいい』といった万引きに対する罪の意識の希薄さがあるのではないか」と考えているようです。

しかし、認知症専門医としては、65歳以上の高齢者の7人に2人が認知症もしくは早期認知症であるという現在、高齢者の万引きに認知症が絡んでいることは間違いないと考えます。決して、「罪の意識の希薄さ」が原因ではないのです。

2.高齢者に多い万引きの例

私のクリニックの患者さんの万引きをご紹介します。いずれもこれを「万引き」と言ってよいのかと疑問を持つものばかりです。

2-1.食べたいものを食べてしまうケース

スーパーマーケット内を歩いていて、ふと見るとパンが並んでいた。正常であれば、「美味しそう」と思っても口に入れることはありません。しかし患者さんは、何も考えずにパンを食べてしまうのです。悪気はありませんから、隠れることもなく堂々と食べてしまうのです。もちろん、店員さんに見つかって、「万引き」の現行犯とされてしまうのです。

baked on shelves

手に取りやすいように置いてあるお店も少なくありません

2-2.周りが騒ぎ立て興奮してしまったケース

コンビニで、商品を購入するわけでもなく、手に取ったり棚に戻したりをしていたそうです。怪しく思った店員さんが、声をかけると逆に驚いてしまったようです。そのため思わず興奮してしまい、「俺は何もしとらんわ!」と大声で怒鳴りはじめてしまいました。そのうえ、店員さんに暴力まで振るってしまい警察沙汰になってしまいました。

2-3.商品を購入する手順が分からなくなったケース

普通スーパーマーケットでは、購入前の商品は店のカゴに入れ、購入後自分のカバンに入れます。しかし、商品を購入する手順が分からなくなった患者さんは、店の商品を店のカゴに入れたり、自分のカバンに入れたりしてしまうのです。もちろん、店の警備員から見れば、「万引き」になってしまうのです。

2-4.二切れ入っている明太子を一つだけ取ったケース

これは未だに理解できないケースです。患者さんは、二切れ入っている明太子のパックの中から一つだけ取り出していくのです。お店の方も、残された一切れをみて、「盗った一切れはどうやって持って行ったのか?」と疑問に思っていたそうです。しかし、あまりに繰り返されたので、監視をしていると患者さんが盗るところを発見。捕まることになったのです。

3.前頭葉機能の低下が万引きを引き起こす

万引きを引き起こしまう原因は前頭葉機能です。通常、早期認知症では前頭葉機能のみが低下します。やがて症状が進行すると側頭葉の機能も低下し認知症となるのです。

現在、認知症患者さんは462万人、早期認知症患者さんは400万人いるとされています。つまり合わせて1000万人近い方の前頭葉機能が低下しているのです。

ちなみに、前頭葉は理性や論理的思考を司り、人間としての尊厳を維持するためにとても重要な部分です。前頭葉機能はが低下してくると、論理的思考ができなくなり、「お金を払ってから食べる」「購入前の商品をむやみに動かしてはいけない」といった理屈が分からなくなります。そのうえ「美味しそうだ」と思った理性を抑えることができないので店の商品であるということを理解できないまま口にしてしまうのです。

この結果、周囲に騒ぎ立てられると、動揺してパニックになり大声を出したり暴れたりしてしまうのです。

brain-work

脳の部位別名称と役割

4.知らないうちに何度も繰り返していることも

患者さんが、万引きでつかまるとご家族はショックを受けます。そんなときは初めてだからやむを得ないと考えがちです。しかし、当院の患者さんの例では、捕まる以前に何度も繰り返していたケースが大半です。

先日もコンビニで捕まった患者さんですが、「本人は商品を動かしていただけで盗んでいない」と主張していました。ご家族も当初は、患者さんの言葉を信じようと思っていました。しかし、お店側の過去の防犯映像には、初めてどころか10回近くの万引きシーンが映っていたのです。驚いたご家族は、お店側に丁重にお詫びをされたそうです。

このように、「初めて捕まったからといって初めての万引きではない」ことをご家族は知っておいてください。

security monitor

お店からこのような映像を見せられると大変ショックです

5.治療と対策とは

ならば、万引きをさせないためには、どのような対策を打てばよいのでしょうか?

5-1.一人で買い物に行かせない

認知症もしくは早期認知症に関わらず、高齢になったら一人での買い物は避けるようにしましょう。ご家族にとっては初めてのケースでも、店側にすれば相当の件数になるのです。あるスーパーでは、「今後は、一切当店にはいらっしゃらないでください」と伝えたとのことです。

こうなると互いに不幸ですから、できれば常に誰かが付き添って一緒に買い物を楽しむようにしたいものです。

Hipster son with his senior father in the kitchen.

ご家族のサポートが大切です

5-2.抗認知症薬も効果的

これはあくまで私の臨床経験に基づきます。万引きを繰り返したり、お店でトラブルを起こす人にブレーキ系の抗認知症薬メマリーを追加すると穏やかになり、万引きをしなくなるケースを経験しています。すべての買い物に付き合うわけにもいきません、一度メマリーの投与を主治医にお願いしてみるのも一つです。

以下の記事も参考になさって下さい。

専門医が教えるアルツハイマー薬の全知識&5つの使い方重要ポイント

6.万引き倒産もあることを理解する

患者さんの家族にとっては、認知症だから万引きもやむを得ないと考えがちです。しかしこの犯罪は、ときにお店を「万引き倒産」にまで追い込むことがあるのです。

具体的な例をいうと、現在スーパーの最終利益率(売上高当期純利益率)は1%台、優良企業であっても大体3%~5%であるといわれています。100円のものを販売しても利益は数円ということです。ということは、仕入値100円の商品を万引きされるとしたら、その万引き分を取り戻そうと思えば優良企業であっても3,000円くらいの売上を上げなければならない計算になるのです。

万引きは、お店の経営に大きな影響を及ぼします。万引き対策が不十分なばかりに、店の経営が成り立たず、万引き被害による利益の圧迫で倒産する「万引倒産」も現実にはあるのです。

家族の方におかれましては放置しないようにお願いします。まずは検査、そして適切な治療をとっていただくようになさってください。

7.まとめ

  • 万引きは、前頭葉機能の低下が原因で引き起こされます。
  • 現在、日本は1000万人近い方の前頭葉機能が低下しています。
  • 万引き倒産を起こさせないためにも、高齢者一人では買いもには行かせない。時に抗認知症薬メマリーの投与も必要です。
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