治る認知症を見逃すな!誤診しやすい代表的10の原因を専門医が解説

治る認知症を見逃すな!誤診しやすい代表的10の原因を専門医が解説
2018-05-01

認知症は、すべてアルツハイマー型認知症ではありません。認知障害には多くの原因があり、なかには適切な診断と治療により改善する「治る認知症」があるのです。しかし、誤診して治療がされないと悪化して改善することはありません。そのために初期の診断がかなり重要です。「高齢者=アルツハイマー型認知症」ではないのです。

結論としては、「治る認知症」に適切な治療が行われれば、画期的に改善されることがあります。しかし、実は医師でも判断が難しい場合があるのです。そのためには思い込まずにいろいろな検査をすることが大事です。そして正しい知識を持っていることも重要なのです。

この記事では、認知症専門医の長谷川嘉哉がそれらの疾患を解説します。

処方されている薬が効かずに「ひょっとしてアルツハイマー型認知症じゃないのでは?」「似ている疾患の可能性もあるのではないか」とお考えの方、また専門ではない医師の方にもぜひ参考にしていただきたい情報です。

1.認知症とは総称である

「認知症」とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態のことを指します。したがって、認知症は病名ではなく、多くの病気の総称です。つまり医学的には、まだ診断が決められず、原因もはっきりしていない状態のことを表しています。

例えるとするなら、「消化器疾患」は総称になります。そのなかに、胃癌、胃潰瘍、慢性胃炎など多くの病気が含まれています。同様に、認知症疾患という総称に、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症など多くの病気が含まれているのです。そのなかで、もっとも頻度が多いのがアルツハイマー型認知症ですが、すべてではないのです。(全体の60%程度)

我々専門医は、そのなかでも診断によって「治る認知症」を見逃してはいけないのです。

Serious Senior Woman With Adult Daughter At Home
周囲が認知症だと思い込んでしまうパターンが少なくありません

2.本当に診断をしたのか?

専門外の先生のなかには、家族の「物忘れがひどい」という訴えだけで、「高齢だからアルツハイマー型認知症」と診断される方がいらっしゃいます。「治る認知症」の鑑別診断もせず、ただ抗認知症薬だけを処方する。これでは、「治る認知症」を見逃すこともありますし、そもそもアルツハイマー型認知症でなければ、抗認知症薬は効果がありません。

認知症の鑑別については以下の記事で詳しくご紹介しています。かかられたお医者さんの診察がどのような感じだったか振り返ってみてください。

3.急激に進行した場合は内科的疾患を疑う

患者さんのご家族で「認知症が急激に進行した」といって病院に連れてこられる方がいらっしゃいます。多くの認知症は急には進行しません。このような場合は、内科的な疾患が原因のことが多いのです。

3-1.除脈

私が外来で経験する、「治る認知症」で代表的なものが「徐脈」です。徐脈とは、不整脈の一種で心拍数が減少した状態です。正常の脈拍は、1分間に60100回です。徐脈では1分間の脈拍が60回を下回ります。突然、心拍数が低下すると意識障害により認知症のような症状を呈するのです。薬物治療やペースメーカーをつけることで、症状は改善します。最近では、診察の際に脈をとる医師は減りましたが、認知症専門外来では必ず心拍数を測ります。

Taking pulse
脈をとることはオーソドックスですが、重要な検査の一つです

3-2.発熱

「朝から急に意識がもうろうとして認知症が進行したみたいです」と言って、受診されるご家族がいらっしゃいます。そこで、体温を測ると、38度を超えている場合があります。認知症が進行したのではなく、発熱による意識障害なのです。慌てる気持ちも分かりますが、熱ぐらいは測定されることをお勧めします。もちろん、そこからは感染症の原因を調べ治療をします。

3-3.甲状腺機能低下症

一般的な診療で、いきなり甲状腺ホルモンを測定することはありません。しかし、認知症専門外来では全例で血液検査で甲状腺ホルモンを調べます。甲状腺ホルモンが低下すると、活動性が鈍くなり、昼夜を問わず眠くなり、全身の倦怠感を強くおぼえ、記憶力や計算力の低下がみられます。まさに認知症のような症状がみられるのです。

しかし、低下した甲状腺ホルモンを補充すれば症状は改善します。認知症専門医としては絶対に見落としてはいけない疾患です。逆に、甲状腺機能低下症にアリセプトなどの抗認知症薬を処方してもまったく効果がありません。

内科で受診していても気づかれず、認知症専門外来で初めて見つかることも結構あるので注意が必要です。甲状腺機能低下症については以下の記事で詳しくお伝えしています。


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3-4.糖尿病

全くの認知症初診の患者さんが、血液検査で糖尿病が見つかることがあります。あまりに血糖値が高いと意識が混濁して、認知症のような症状を呈するのです。但し、この場合は認知症に糖尿病を合併してることが大半です。そのため糖尿病の治療をして意識混濁は改善しますが、認知症は残ってしまうことが多いようです。

4.薬の副作用もある

認知症専門外来では、薬の副作用で認知症のような症状を呈することがあります。もちろん、薬を中止することで症状は改善。まさに認知症が治ってしまいます。

4-1.風邪薬の場合

特に軽い風邪症状の際に処方される総合感冒薬は要注意です。総合感冒薬には、眠気を誘発する成分が入っており、高齢者の場合、認知症のようなせん妄症状を起こすことがあるので注意が必要です。高齢者の方は、少々の咳や鼻水では風邪薬は飲まないようにしましょう。

また、認知症患者さんへの風邪薬の作用については以下の記事で詳しく解説しています。

4-2.睡眠薬の場合

睡眠薬の使用には、薬の作用時間が大事です。作用時間が長い薬を服薬していると、夜に飲んだ薬が昼間にまで残ることがあります。認知症専門外来に来た患者さんで睡眠薬を作用時間の短いものに変えただけで物忘れが改善された方もいらっしゃいます。睡眠薬を処方された場合は、睡眠薬の半減期(薬の効いている時間)を確認するようにしましょう。専門外の先生方のなかには、睡眠薬の半減期を知らずに処方していることが結構多いので注意が必要です。

4-3.制吐薬の場合

高齢者になると、慢性的な悪心を訴える患者さんがいらっしゃいます。吐き気や胃のむかつき、実際に吐いてしまうことなどです。その際にプリンペランナウゼリンと言った消化器系の薬が処方されることがあります。本来、長期に処方するべき薬ではないのですが、訴えが改善されないために処方が継続されることがあります。

長期に服薬すると副作用として、活動性が下がったり、表情が無くなり、歩行も不安定になることがあります。認知症の薬を処方する前に、これらの薬を中止するだけで改善することが結構あります。

5.脳外科的疾患は手術で治る

脳外科で手術をすれば完全に治癒する「治る認知症」があります。これらの疾患は、症状だけでは診断は難しいのですが、頭部CTを撮ると簡単に診断がつきます。認知症を疑った場合は、一度は頭部CTを撮影してもらうようにしましょう。

5-1.慢性硬膜下血腫

物忘れや歩行障害、トイレの失敗など、認知症とよく似た症状が現れます。転倒や頭をぶつけたことがあると4週間前後で症状が出現します。 しかし、高齢者の場合、頭を打ったことを自覚していないこともあるので、注意が必要です。脳に溜まった血腫を除去すれば脳は正常な状態に戻ります。

5−2.正常圧水頭症

歩行障害、認知障害、尿失禁の3つを主症状とする疾患です。先ほどの慢性硬膜下血腫と症状も似ていますが、頭部のCTを撮れば簡単に鑑別ができます。脳室に貯まった水をお腹の中などに導いて腹膜の静脈から吸収させたり、直接静脈内へ導いて吸収させると治すことができます。

6.うつ病には特徴がある

精神科的疾患が原因で認知症のように見えることがあります。その中でも、「うつ病」は代表です。高齢者のうつ病の特徴は、精神的な訴えよりも、身体的訴えが強くなります。頭が痛い、お腹が気持ち悪い等、執拗に訴えます。それらの症状に対して、薬を処方しますが改善しません。

そのようなときは、自分の場合は思い切って抗うつ剤を使用します。うつであれば、2〜4週程度で抗うつ薬は著効します。逆に4週間処方しても効果がない場合は、無意味に継続せずに中止することが大切です。

7.認知症薬の使い分けについて

実際に認知症患者さんだったとしても、タイプによってクスリの使い分けをしないと、効果が現れずにより悪化する場合があります。具体的には、意欲や活動レベルの低下には、アリセプト、リバスタッチ/イクセロンパッチ、レミニールを、反対に感情が激しかったり攻撃性がある場合はメマリーなどを処方します。「認知症=アリセプトを処方」の時代ではないのです。

現状の処方薬と患者さんの傾向が違うかもと思った方は以下の記事も参考になさってください。

8.まとめ

  • 認知症は総称であって、なかには「治る認知症」があります。
  • 「治る認知症」は適切な診断治療で改善します。
  • 認知症を疑った場合、一度は専門医を受診して「治る認知症」を鑑別してもらいましょう。
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