あなたの痰は、本当に「痰」?医師が教える原因と治療など痰の全知識

あなたの痰は、本当に「痰」?医師が教える原因と治療など痰の全知識
2018-09-17

頻回な「痰」に困って訴えて受診される患者さんは結構いらっしゃいます。

しかし、「痰」を訴える患者さんの中には、本人は「痰」と思っていても、実は「痰」でない患者さんも結構いらっしゃいます。「痰」であれば「痰」に対する治療が必要です。しかし、痰でなければ、治療方法も変わってきます。その違いはなんでしょうか? いろいろな原因がこの「痰」や「痰だと思われているもの」を引き起こします。今回の記事では、総合内科専門医である長谷川嘉哉が、痰についての正しい情報と対処方法をご紹介します。

1.痰とは

痰は気道から出る分泌物です。健康な人でも常に少しずつ出ていますが、普段は気道表面から再吸収されたり、のどまで上がってから無意識に飲み込まれたりしているのであまり意識されません。のどの奥から肺までの空気の通り道の粘膜表面に強い刺激や炎症が長く続くと、痰が増えます。

実は、「痰がでる」と訴えている方でも、のどの奥にたれた「鼻水」や「鼻漏」を痰と言われている方もたくさんいらっしゃいます。

痰はあくまでも気道から分泌されたものですから、肺炎や気管支炎では病原菌を排除する反応の結果として分泌されます。また、煙草を吸う方は健康でも痰がでます。

2.痰の種類

痰にも色や時期により種類があります。

2-1.痰の色

  • 黄色または緑色:サラサラした水っぽい痰が硬くなり、白色から黄色や緑色に代わると、膿性の痰と呼ばれます。これは細菌と白血球と粘液の混ざったものです。例えば、慢性副鼻腔炎で膿性の鼻汁がのどの奥に落ちてくる後鼻漏が、膿性の痰が増えてきたと誤解されることがあります。
  • 赤色痰に血液が混じっている場合を血痰ほどんどが血液そのものである場合を喀血と呼びます。口から血が出た場合、出血した可能性のある部位としては、鼻の中・口の中(歯肉・舌等)・のどからの出血(咽頭・喉頭)や気管支・肺からの出血、もしくは吐血(とけつ)といった食道や胃からの出血が考えられます。外来診療における最も多い原因は上気道炎によるものですが、なかには重大な病気が隠れていることもあります。

2-2.痰がでている期間

young woman coughing
痰が続く期間で、おおよその原因が予想できます

痰が排出されるような病気では、咳の反射が低下するような基礎疾患がない咳を伴います。そのため、咳の期間である程度原因が予想されます。

  • 3週間未満の咳と痰:ほとんど感染が原因です。特別な経過やほかに特別な症状があれば、必要に応じて胸のレントゲンやインフルエンザの検査などを行います。
  • 3週間〜8週間未満の咳と痰:多くは感染後の名残であることが多いのですが、症状がだんだん強くなったり通常の経過と異なることがあればレントゲンで経過をみたり、喀痰の検査で細菌や悪性細胞の有無をみる検査を行うこともあります。
  • 8週間を過ぎた咳と痰:感染以外の原因が考えられます。

3.痰がでる原因疾患

痰がでる代表的な疾患をご紹介します。

3-1.風邪

風邪の原因は、ほとんどがウイルスです。風邪のウイルスが気管支の粘膜を痛めると咳や痰がでます。

3-2.アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎で、鼻内の鼻水が増えてくると、鼻の穴から鼻水が出て、さらに喉の奥に鼻水が垂れたものを痰と言われる患者さんは多いのです。

3-3.副鼻腔気管支症候群

副鼻腔炎いわゆる「蓄膿」が原因です。副鼻腔に分泌物や膿がたまることで、鼻水が粘り気を帯びます。その鼻水が喉へ流れることで、寝ている間に喉にたまった分泌物を出そうとします。多くの患者さんは、この分泌物を痰といいますが、実は痰ではありせん。寝ている間に咳が出て、粘り気のある分泌物が喉から出る場合は、耳鼻科での副鼻腔のチェックが必要です。

3-4.肺炎

風邪がこじれて気管支肺炎になると、熱が38度以上になり気管支から痰が大量に分泌されます。これこそが細菌と白血球と粘液の混ざったものであり、典型的な痰といえます。

3-5.慢性閉塞性肺疾患(COPD)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の原因の90%がタバコの煙です。煙に含まれる有害物質を長期にわたって肺に取り込むことで、肺が炎症を起こすのです。坂道や階段の昇り降りで息切れをしたり、咳や痰が続きます。

この病気の怖さについては以下の記事を参考になさってください。


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3-6.肺結核、肺がん

命に関わる疾患です。痰が続く場合は、念頭に置く必要があります。

4.対応策

痰には以下のように対応します。

4−1.3週間以内の軽微なもの

3週間以内の痰であれば、多くは感染症が原因ですから、様子観察や薬の服用で原因疾患の治療を行うことで、自然に痰は消失します。煙草を吸っている方では禁煙が絶対必要です。時々、煙草を吸いながら「咳や痰が止まらない」と訴える患者さんがあります。医療はあくまで、自然治癒のサポートです。患者さん自身にも努力していただく必要があるのです。

4-2.痰が続く場合の注意点

痰を気にしすぎてしょっちゅう強く「痰切り」をしたり「咳払い」をしたりすると、逆にのどの粘膜を痛めてしまい逆効果です。うがいも極端に強く行うのはよくありません。軽く口に含んで出せば十分です。

4−3.痰が3週間以上続く場合

咳が続く場合は、まずは内科を受診しましょう。診断は重症度の高い順から否定する必要があります。命に関わる、肺がん、肺結核、肺炎を否定する必要があります。内科では、胸のエックス線写真を撮ってもらいましょう。肺に異常陰影が見えることがあります。大きい病院で行う胸部CTスキャン検査で、初めて見える陰影もあります。痰を容器に出して検査することも大切で、痰のなかに含まれる細菌や結核菌、がん細胞、喘息にかかわりが深い炎症細胞である好酸球などを調べます。

これらが否定されて内科的に異常がないことが確認されても痰が残る場合は、耳鼻科で副鼻腔炎やアレルギー疾患をチェックしてもらいましょう。

Pneumococcal pneumonia, medical concept
細菌による肺炎が咳と痰を引き起こすことがあります。気管支炎、肺気腫、肺結核、肺癌の可能性も探ります

5.痰の治療

検査で痰と診断された場合は、痰を減らすために去痰剤を使用します。

5-1.去痰剤には2種類ある

臨床では、以下の2種類を組み合わせて処方します。

  • 気道の粘液の分泌を亢進させ、気道壁を潤滑にして痰の喀出を容易にするもの:ビソルボンやムコソルバンなど
  • 痰の粘稠度を低下させてその喀出を容易にするもの:ムコダインなど

5-2.吸入

患者さんが寝たきりなどで、自分自身で痰も出せないようなときは、去痰剤の吸入も効果的です。この場合は、去痰剤の中でも吸入液があるビソルボンを使うことで痰を出しやすくします。

5-3.抗生剤

通常の風邪の原因の8割を占めるウイルス感染に抗生剤は無効ですが、細菌性の肺炎や副鼻腔炎には抗生剤は有効です。必要な時に適切な量の抗生剤を使用します。

6.まとめ

  • 痰は気道からの分泌物です。
  • 痰を訴える患者さんの中には、鼻水や副鼻腔からの濃を痰と訴える患者さんもいます。
  • 3週間以上痰が続く場合は、まずは内科で命に関わる疾患を否定することが第一です。

 

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