6万件の訪問診療医師が解説、訪問歯科の勧めと導入のメリットとは

6万件の訪問診療医師が解説、訪問歯科の勧めと導入のメリットとは

当院は2000年4月の開業以来、6万件を超える訪問診療、600人を超える在宅看取りを実践してきました。訪問診療では医師や看護師だけでなく、歯科医や歯科衛生士さんとの協力が不可欠です。そのため、在宅医療ではごく自然に「医科歯科連携」が行われてきました。

しかし、訪問歯科診療に取り組んでいただける歯科医さんは一部にすぎません。「訪問歯科は大変そう」「どうやって立ち上げるの?」「そもそも利益が出るの?」など、不安や疑問があるのだと思います。

今回の記事では在宅専門医の長谷川が患者さん及び歯科クリニックにとっての訪問歯科のメリットをご紹介します。是非、多くの歯科クリニックの先生方に、在宅医療に取り組んで頂きたいと思います。

1.訪問歯科診療とは?

訪問歯科診療とは、歯科医院に通院する事が困難な方(体が不自由であったり、介護が必要となっている方など)のご自宅や入居施設等に、歯医者さんや歯科衛生士の方が訪問して、治療や診察、口腔ケアなどを実施することです。

医療者が診療室を出て在宅や施設などで医療を行うことが在宅医療です。これが一番大きな「くくり」です。この在宅医療の中に往診訪問診療があります。往診は、あくまでも患者さんから依頼があった時だけ行うもので、外来診療の延長にあるものです。一方、訪問診療は、往診とも、または入院とも異なるサービスで、在宅歯科診療と呼ばれます。通院が困難な方に長期的な治療計画を立てて、継続的に患者さんを訪問して診療を行うサービスです。

二つの違いは、一度きりの訪問か、計画に基づいた長期的な訪問かというところです。当院がすでに行っており、また多くの歯科医の方に取り組んでいただきたいのは、往診でなく訪問診療なのです。

2.訪問歯科で何をする?

設備によって大きく異なりますが、基本的には診療室とほぼ同じことができます。

2-1.入れ歯の調整

訪問歯科診療で最も多い依頼は入れ歯に関する依頼です。在宅患者さんでは、入歯をしていると痛みがある、外れやすい、入らない、なくしたなど、本当に多くのトラブルがあります。これらに対応するための器材は少なくてすみ、ほぼ全部の診療所で対応できますので、よほどでない限り診療室と同じレベルの処置が可能です。

2-2.虫歯の治療

急な歯の痛み等に対応します。しかし、ここでお薦めしているのは定期的な診療計画に伴う訪問歯科診療です。そのため、定期的な訪問歯科が導入されれば、虫歯治療が必要となるケースは思いのほか少なくなります。

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程度によっては様子見することもあります

2-3.口腔ケア

定期的な口腔ケアをすることで、誤嚥性肺炎が予防できます。口腔ケアは患者さんにとても心地良く、健康寿命にとっても良い影響があります。

2-4.嚥下リハビリ

在宅患者さんの多くは、嚥下機能障害を持っていますので、口腔ケアに加えて、嚥下リハビリを行います。同時に、食形態や口の状態を確認し、症状に合わせた食事方法をご提案します。未経験の歯科医の先生は嚥下リハビリに不安を持たれるようです。しかし、嚥下リハビリの可否は医師が判断します。もちろん、責任も医師が取りますので心配はありません。適宜、相談しながら進めましょう。

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ポータブル歯科ユニットがあれば、多くの診療が可能です(画像出典:モリタコーポレーション)

3. 訪問歯科には歯科衛生士が重要な理由

在宅歯科診療では、歯科衛生士の存在が重要です。しかし、訪問歯科は歯科衛生士さんにとっても働きやすい環境なのです。

3-1.治療よりメンテナンスが中心

治療が必要な場合は歯科医による治療が行われます。しかし、治療後は歯科医は1〜2カ月に1回の訪問診療を行うだけです。代わりに月に4回、歯科衛生士さんによる口腔ケアを行うことになります。口腔ケアに関しては、口腔内を清掃する「気質的口腔ケア」と、口腔機能を維持・回復させるための「機能的口腔ケア」を行います。通常は30〜40分かけて行います。


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3-2.歯科衛生士を集めやすくなる好循環も

歯科医にとって歯科衛生士をいかに集めるかは重要な課題です。しかし、訪問歯科は向上心のある歯科衛生士にとって、とても関心のある分野です。そのため訪問歯科を導入することで、優秀な歯科衛生士を確保しやすくなるのです。さらに歯科衛生士さんの仕事内容が、「経験が少ないうちは外来診療。経験を積めば訪問歯科診療」という流れができれば、教育システムの一つにもなるのです。

Elderly patient on dental treatment
歯科衛生士さんにとっても、短時間で高収入が得られる環境となります

4.当院の経験

訪問歯科を依頼して効果のあった当院の経験を紹介します。

4-1.部屋の臭いが変わった

寝たきりの患者さんの部屋には独特の臭いがあります。これはやむを得ないものだと思っていました。しかし、訪問歯科を導入すると、部屋の臭いがなくなるのです。つまり、寝たきり患者さん特有の臭いのもとは口臭だったのです。

4-2.歯肉がピンク色に変化

我々は、患者さんの歯肉の色が変わることにも気が付きました。当初は、赤っぽいのは血の流れが良いと勘違いしていました。訪問歯科を導入すると歯肉の色は、ピンク色に変わるのです。

4-3.患者さんが喜んでくれる

これは訪問歯科をした歯科医さんからの言葉です。通常の外来歯科診療に来られる患者さんは、嫌々来院される方が殆どです。しかし、訪問歯科では歯科医や歯科衛生士さんの訪問を心から喜んで感謝してくれます。これが、訪問診療に携わる医師や訪問看護師が、一度始めると止められなくなる理由です。人に感謝されることは本当に心地よいのです。

5.歯科医さんの経営面でもメリットが

はっきりいえば訪問診療は経営に好影響を及ぼします。

5-1.空いている時間を有効利用できる

訪問診療は午前診と夕診の間に行いますから、何も生み出さない時間に売上を上げます。その際には殆ど経費も掛からず、売上がほぼ利益になります。このメリットは相当大きいものです。

5-2.歯科医以外で収入面のプラスが得られる

歯科医業だけで売上を上げることは理事長・院長にとってはつらいものです。訪問歯科の売上のメインは歯科衛生士さんによります。つまり、どれだけ依頼が増えても歯科医の負担はわずかです。その上、10時から15時といった外来では働いてもらえない時間帯に歯科衛生士さんに働いてもらうことができます。これは子育て中の歯科衛生士さんにも働いてもらえることができるということにもなります。

5-3.時間当たりの単価は、訪問看護以上

訪問歯科では、医療保険請求と介護保険請求の居宅療養管理指導を算定します。その結果、歯科衛生士さんの時間当たりの単価は、医科における訪問看護より高くなります。この事実はあまり知られていないのですが、訪問看護ステーションを運営しているものからすると魅力的です。

6.歯科医が訪問歯科を行うのに「営業が大事」とは

患者さんおよびご家族が、訪問歯科の重要性を知って、歯科に問い合わせを頂けると訪問歯科を開始することができます。しかし、実際はこのような流れは稀です。通常は、ケアマネや訪問医療をしている医師が起点になることが多くなります。

6-1.ケアマネとの良好な関係が必要

訪問歯科の成否は、ケアマネ次第です。どれだけ素晴らしい訪問歯科が行えても、使ってもらえなければ意味がありません。そのため、訪問歯科を始めると決めれば、必ず地域のケアマネに挨拶をしましょう。できれば理事長・院長自身が出向かれると好印象です。そこで信頼を得ることで、患者さんをご紹介頂けます。私自身、2000年4月に開業した当時、訪問診療をご紹介いただいたのは100%ケアマネさん経由でした。ケアマネさんからの信頼こそが、訪問歯科の成功につながるのです。

6-2.医科の訪問診療との連携も必要

すべての医師が訪問診療を行っているわけではありません。介護保険が施行されて以降、訪問診療は一部の力のあるクリニックがシェアを押さえています。その地域の訪問診療をしている強者である医科の先生との連携が重要です。医師の立場からすれば優秀な歯科医と組めれば、自身の評価にもつながりますからWin-Winの関係になるのです。

6-3.多治見市のケース

岐阜県多治見市はかなり特殊なケースです。地域の歯科衛生士さんがとても優秀で、独立したグループを作っています。患者さんに訪問歯科が必要と判断されると、最初に歯科衛生士さんが伺います。その後は歯科衛生士さんが、患者さんの地域の協力歯科医に連絡をして、訪問歯科を開始。同時に歯科衛生士さんも入ります。その際、歯科衛生士さんは保険請求ができませんので、歯科医が保険請求。歯科医は手数料を引いた分を、歯科衛生士さんに渡します。まさに海外における独立した歯科衛生士さんの働き方をしているのです。

7.まとめ

  • 訪問歯科は、在宅患者さんには必須であり、とても感謝されます。
  • その上、歯科クリニックの経営にも好影響を与えます。
  • さらに求人難の歯科衛生士さんが集まりやすくなり、また子育て中の歯科衛生士さんにも働いてもらいやすくなるのです。
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