認知症薬はいつまで?患者さんへの投薬中止のポイントを専門医が解説

認知症薬はいつまで?患者さんへの投薬中止のポイントを専門医が解説

抗認知症薬は、症状の進行を遅らせる効果しかないと言われています。しかし、早期であれば、進行を遅らせるだけでなく、改善することもありますしかし発症後年数を経ると患者さんが寝たきり状態になったり、その状態のまま認知症の症状が進行することがあるのも事実です。

そんな時に、いつまで抗認知症薬を使用するかは迷うところです。

そんな中、2019年3月、日本精神科病院協会は、症状の著しく進行したアルツハイマー病に対する抗認知症薬の使用方法を示すアルゴリズムを取りまとめました今回の記事では、月1000人の認知症患者さんを診察する長谷川嘉哉が、今回のアルゴリズムを紹介しながら、具体的なポイントをご紹介します。

1.アルゴリズムにおける「投薬中止のポイント」とは

アルゴリズムでは、おおよそ以下の状態では抗認知症薬を慎重に継続するか、減量中止を検討するように提案しています

1-1.認知症が著しく進行した状態では

認知症が著しく進行した場合は、やみくもに抗認知症薬を継続するのではなく、慎重に継続することが提案されています。

1-2.副作用が重篤ではないが効果より上回る

抗認知症薬による副作用が重篤でなくでも、認知症を改善する効果よりも上回る場合は、減量・中止の検討も提案されています。

1-3.抗認知症薬により期待できるBPSDへの効果があるか?

抗認知症薬の減量や中止を考える場合は、抗認知症薬によってコントロールされているBPSDが、あるか否かを検討したうえで対応することが提案されています。

*BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)

:認知症の進行によって起こる症状。代表的なものには、幻覚・妄想・錯覚、徘徊、不安・焦燥、多動、無為・無反応、アパシー、不潔行為、うつ、暴言・暴力

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認知症によってBPSDが抑えられている場合は継続を検討します

2.症状が著しく進行した状態とは?

認知症の症状が著しく進行した状態とは以下のような状態を指します。

2-1.運動機能は正常だが、認知機能が進行

運動機能は正常で、杖なども不要で、歩きまわったり、走り回ることさえ可能な状態の方がいます。しかし、認知機能は相当に進行し、認知機能を評価するMMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)も、30点満点で一桁であったり、時には検査自体が不可能なレベルです。この状態では、抗認知症薬の継続がかえって副作用を引き起こしたり、逆に安易な中止により対応が困難になることがあります。


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2-2.運動機能も低下して、ほぼ寝たきり

その状態がさらに進行すると、今度は運動機能も低下。具体的には、両下肢の廃用性筋力低下により歩行や移動が不可能になります。結果、生活の主体がベッド上となり、いわゆる寝たきりになります。この状態にまでなれば、そもそも抗認知症薬の効果判定自体が困難です。このような重度の状態では、殆どの抗認知症薬は不必要と考えても問題ありません。

senior female patient sleeping on bed
薬の効果が不明になった状態では継続する必要はないかもしれません

3.抗認知症薬の継続による副作用とは?

抗認知症薬の安易な継続が副作用を示す場合もあります。

3-1.アクセル系の抗認知症薬の過剰興奮

抗認知症薬の中でも、アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチはアクセル系の薬です。そのため、認知機能障害が重度になると過剰興奮となり、徘徊・攻撃性・暴言・暴力といった症状を引き起こすことがあります。そのような場合は、これらの抗認知症薬を中止するだけで症状が治まることが、結構あります。特に、アリセプトの最高用量10㎎やレミニールの最高用量12㎎を使用している場合には注意が必要です。

3-2.メマリーによるふらつき、傾眠

メマリーは、抗認知症薬の中でもブレーキ系の薬です。認知症患者さんを穏やかにするには特筆すべき効果があります。しかし副作用として、ふらつきにより転倒したり、1日中寝ていることが増えれば、減量・中止が必要になります。メマリーについては以下の記事も参考になさってください。

3-3.アリセプトによる循環器症状

アリセプトは専門外の先生が処方し、その後、万全と処方が継続されていることが多い薬です。アリセプトは、不整脈や徐脈などの循環器症状を引き起こすことがあるため、出来れば定期的な心電図、最低でも脈拍の測定が必要です。

4.抗認知症薬による大切な効果は

抗認知症薬は副作用ばかりではありません。何気なく処方されている抗認知症薬によって、認知症の症状の中でも、BPSDがコントロールされていることもあります。その場合は、安易な抗認知症薬の減量・中止には注意が必要です。

4-1.アリセプトによるアパシー改善効果

認知症には、アパシーと言って、感情がなくなることがあります。アパシーは、興味や意欲の障害です。アリセプトは、BPSDの中でうつや不安、アパシーに効果がしばしば見られます。そのため、アリセプトの中止でアパシーが悪化して、周囲への関心や食べることへの関心がなくなることがあるので注意が必要です。

4-2.メマリーによる攻撃性の改善効果

メマリーは、BPSDによる妄想・易怒性・攻撃性に著明な効果を示します。そのため、安易なメマリーの減量・中止で、コントロールされていた症状が再燃し、介護者への介護負担が増すことがあるので注意が必要です。

5.継続するべき患者さんの状態は

抗認知症薬は、以下のような場合は、無理に減量・中止せずに継続しておくことがお勧めです。

5-1.覚醒度も良好

昼間もしっかり覚醒しており、過剰に興奮することなく、逆に傾眠状態でなければ、あえて抗認知症薬の減量・中止は不要です。

5-2.介護者にも負担がない

抗認知症薬を処方した状態で、特に介護者に負担がない状態であれば、あえて抗認知症薬の減量・中止は不要です。この点は、介護者と十分なコミュニケーションが必要になります。

6.まとめ

  • 認知症患者さんも寝たきりにまでなれば、抗認知症薬の継続は不要なことが多いです。
  • 運動機能が維持されて状態での重度認知症患者さんの場合は、継続・中止いずれにせよ専門医の判断が必要です。
  • 日中覚醒して、介護者にも負担がなければ、あえて抗認知症薬の減量・中止は不要です。
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