免許返納すべき5つの症状と5つのメリット、実際の方法と事例の紹介

免許返納すべき5つの症状と5つのメリット、実際の方法と事例の紹介
2017-10-02

高齢者の交通事故が毎日のようにニュースになっています。さらに平成29年3月の道路交通法改正により、免許返納を考える方が増えています。

免許更新を機に自主返納される方、免許更新の際の試験で落ちて更新ができない方、様々です。高齢者と暮らす多くのご家族はこんな不安をお持ちだと思います。

「高齢になった親に運転を続けさせて良いのか」

「理由の如何にかかわらず、事故があれば自分に負担がかかる」

「できれば運転を辞めてほしい」

このサイトでは、ご家族の皆さんの不安を取り除けるように解説をします。実際にこれまで毎月1000名の認知症患者さんを診察している認知症専門医の長谷川が自らの経験から皆様にお伝えするものです。

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免許返納を考える人が増えている

1.免許返納を真剣に考えるべき人の5つの症状

認知症専門外来で診察をしていると、”まさか”と思う方が車の運転をしている方がみえます。皆さんの身の回りの方でこのような方はいらっしゃいませんか。

1−1.言ったことを瞬時に忘れてしまう人

当院の外来で患者さんを見ていて難しい検査をしなくても、明らかに「免許返納」を考えたほうが良い人がいらっしゃいます。それは、話している時から言ったことを忘れてしまう人です。ご自身が3分前に話されていたことを忘れてしまうのです。ご家族にも何度も同じことを聞く、同じ話を繰り返します。この状態では、専門外来で検査する以前に免許の返納を検討しましょう。

1−2.話が通じない人

ご家族からの相談で最も多いのが、御家族が一生懸命免許返納を説得しても話が通じない人です。ご家族が「免許返納した方がいんじゃない?」と言っても、“なぜそれを言われているのかが、わからず”、自分勝手な理屈を並べます。

私の外来でも、「俺は、昔無事故無違反だった!」「俺は、もともと仕事で運転をしていた」などと、昔の話を繰り返す方がいらっしゃいます。「それは昔の話で、現在は…」と説明しても、全く聞く耳を持ちません。こんな、“話が通じない人”は是非免許の返納を検討しましょう。

1−3.感情のコントロールができない人

免許返納の話をしていると「いい加減にしろ!俺は運転できるんだ!」と怒ってしまう人がいらっしゃいます。ご家族が病院に行きましょうと促しても、すぐ怒ってしまってご家族も手がつけられない人。実は、この話だけでも認知症は結構進行しています。 “理性のコントロールができない”は認知症の症状と考えられます。

感情のコントロールができない人は、免許の返納はもちろんですが、家族関係の崩壊にまで至ります。本来は、治療も必要なレベルです。

1−4.歩行が不安定な人

免許返納を考える際に忘れてはいけないことがあります。車の運転では事故を起こした際に救命の義務があります。歩行が極めて不安定でいつ転ぶかわからない人に救命行為ができるでしょうか。

認知機能障害の議論以前に、運動機能が落ちている人も免許の返納を検討しましょう。

1−5.難聴が高度な人

認知症専門外来では、難聴患者さんに対しても、筆談等で検査を行います。結果、難聴であっても正常な方はたくさんいらっしゃいます。しかし、車の運転では難聴は問題です。運転中に、周囲からの音が聞こえないということは、とても危険です。仮に認知機能が正常でも、高度難聴であるだけでも免許の返納を検討しましょう。

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運転によって生じるデメリットは想像以上

2.免許返納の3つのデメリットと5つのメリット

いざ免許返納を検討しても、デメリットとメリットどちらが大きいのでしょうか。この章ではそれについて解説します。

2−1.意外と少ない3つのデメリット

 ①生活が不便になる

地域によっては車のない生活は本当に不便なものです。特に、日々の食料品の買い物には支障をきたします。”車に乗らない”を条件に、週末にまとめて子供さんたちと買い出しをすることも一案です。

 ②社会との関りが減る

例えば車を運転して毎日喫茶店に行っていた人は機会が減るかもしれません。定期的に会っていた、友達との交流も減るかもしれません。当事者にとっては大きなデメリットでしょう。

しかし、できれば工夫をしてみませんか。友達に便乗させてもらう、家族が送迎する、タクシーを使うなどの工夫で社会との関わりを減らさないようにしたいものです。

 ③免許がなくなると認知症が進行するのではと心配になる

“車の運転をしなくなると認知症が進んでしまうから、ご家族も運転を黙認する”、こんなケースが結構あります。

正直、“運転の継続と認知症の進行の関連”には明確なデータはありません。しかし、改めて考えてみて下さい。車の運転は他人様を傷つけることもあるのです。自分の子供やお孫さんが認知機能の落ちた高齢者の運転する車で事故に合ったらどう思いますか。少しでも、危険性があれば運転を回避すべきです。

2−2.本人とご家族の安心安全が大きい5つのメリット

 ①優遇制度が使える

運転履歴証明書を取得すると公共交通機関の運賃割引等、各市町村ごとに受けられる制度があります。一度調べてみてください。

 ②老人には数少ない公的証明書が得られる


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運転履歴証明書が身分証明書の代わりとなる点はメリットです。年を取ると、身分証明するものがなくなるから免許返納を拒んでいる方もいらっしゃるぐらいですから…。

 ③本人が事故を起こす可能性が極端に下がる

事故に遭われた被害者の感情を考えて想像してください。もし自分の大切な子供やお孫さんが事故にあったとします。その時のドライバーの認知機能が落ちていたら…それでは、感情の行き場がありません。

運転を許していたご家族に対して、怒りの感情を向けてしまうのではないでしょうか。「どうしてこんな人間に運転を許していたんだ!」と認知症のドライバーのご家族に対して怒りの矛先が向いてしまいます。早めの免許返納はこうしたリスクを減らします。

 ④ご家族のリスクも減る

認知症患者さんが徘徊の末、JR東海で事故を起こしてしまったケースで、ご家族に対する損害賠償が要求された例があります。結果、最高裁まで争ってご家族への損害賠償請求は棄却されました。認知症患者さんの徘徊はご家族にも止めることができない点、妥当な判決だと思われます。

しかし、車の運転は、ご家族が黙認していた事実がある訳です。今後は交通事故の際、ご家族に損害賠償を求められる可能性があります。免許返納をすることによって、こうしたリスクがなくなりご家族が安心して過ごすことができます。

 ⑤損害保険は認知症患者の運転には支払いを拒むことも

認知症の患者さんが運転して事故を起こした場合、保険金が支払われないという時代が来る可能性があります。言い方を変えると、認知症もしくは疑いのある方が車の運転をすることは、飲酒運転と同じです。

損害保険は飲酒運転での事故には対応していません。“医師の認知症だから運転してはいけない”という指導にもかかわらず、運転して事故を起こした場合に、実刑判決が出た判例もあるのです。今後、損害保険が支払いを拒否する可能性は否定できません。

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免許返納により得られるメリットもある

3.免許返納の方法

ここでは実際の方法について具体的に解説します。

3−1.<場所> 最寄りの警察署でもOK

運転免許試験場や住所地を管轄する警察署で受け付けてくれます。但し、それぞれに一長一短があります。運転免許試験場に行けばその日にやってくれますが、場所が自宅から遠い方が多いのではないでしょうか。

一方、管轄する警察署は自宅から近いわけですが、その日では終わりません。それぞれの特徴がありますので、運転者の状態、自宅からの距離を鑑みて検討してみてください。

3−2.<書類> 免許証をもっていけばOK

運転免許取消申請書(申請会場に置いてあります)と運転免許証が必要です。

高齢者 免許自主返納
免許返納は難しくない

4.平成29年3月から道路交通法改正により自主返納が増加した理由とは

繰り返される高齢者の交通事故に対して、対応が遅れていた行政もようやく本腰を入れました。平成29年3月の道路交通法改正により、自主返納が多くなってきたことについて説明します。

4−1.自主返納の背景

この改正により、75歳以上の方々が免許更新の時にテストを受けなければならなくなりました。テストの点数が悪かったために、自主的に返納される方と、納得ができなくて医師の許可書を手に入れようとする方にわかれます。

4−2. 検査に通らなければ免許を失う

当日の検査では時間の見当識、手がかり再生、時計描写等をします。満点は100.12点で49未満の方は運転に際して医師の許可証が必要です。不合格になった場合にはこの時点で医師の検査を受けるのはわずらわしいので、自主返納を選択させる方が増えています。運転を続けようと思えば医師の許可証を3ヶ月以内に提出しなくてはなりません。

もし提出ができなければ免許は更新されず自動的に剥奪になります。私たち認知症専門医がこの検査に落ちた方の診断をすると、ほぼ早期認知症、認知症の診断がつきます。その結果、多くの医師は許可証を書きません。つまり、自主返納をするしないに関わらず、検査で通らなかった人は免許を取得することはできないということです。

5.検査は通っていても運転をやめてほしい時の説得方法

検査に通っても、明らかに運転が危険な方々もいらっしゃいます。それ以外にも単純に年を取っており、家族として運転を止めてほしいときの対応方法です。

5−1.親の気持ちを考える

皆さん想像してみてください。普通に車に運転して、社会と交流を図っていたのに、ある日突然周囲から、“車の運転は止めて!”。きっと、悲しい、怒り、不安など多くの感情が交差するのではないでしょうか? ですから、まずは時間をかけて親子で話し合いましょう。焦ってはいけません。多くの方々は、この段階で納得をしてくれることが多いようです。

5−2.ご家族で必死に説得をする

残念ながら、普通に話をしても噛みあわないこともあります。そこで、次の段階では、少し強めに自分の娘や息子が真剣に「運転をやめた方がいいのでは?」と説得しましょう。さすがに、自分の子供に、強く言われてしぶしぶ納得される方もいらっしゃいます。しかしながら、それでも「俺は大丈夫」と言い張る方もいます。

5−3.強制的に車を処分する

話し合いではらちが明かない時は、少し、強制的ですが、車の処分を先にしてしまうことも手です。外来では結構この手を使う方がいらっしゃいます。話し合うとこじれるのですが、車を処分してしまうと、改めてことの重要性に気が付かれるのか、素直に諦めてくださる方も結構いらっしゃいます。

5−4.医師に頼んで公安委員会へ通報

本当に認知機能が悪化している場合、医師としても危険性を感じることがあります。上記の手段を使っても納得してくれない場合。医師に依頼をして、公安委員会に通報することも可能です。その際は、必要書類を公安委員会からもらって医師に記載をお願いしてもらってください。

6.免許返納の事例

<事例①>

Aさんはお昼にお酒を飲んでお昼に車の運転をしようとする。ご家族が止めに入ると「俺は飲んでいない!」と言って運転しようともするのです。公安委員会に書類を書いて免許を剥奪してもらいました。当初、公安委員会の方から「こちらに来てください」と言われましたが「とてもそんなことができる人ではない」と説明したら、公安委員会が自宅に来てくれました。さすがにAさんも納得して免許返納の手続きをしてくれました。

<事例②>

Bさんが車に小さな傷をつけて帰ってくるので、息子さんが本人に聞いたところ「俺は知らない。誰かが傷付けたんだ!」と主張します。知らない割には傷が多すぎたため、説得をしましたが「大丈夫だ」と言い切ります。そこで息子さんが強制的に車を処分しました。そうすることによって、車の運転自体も忘れてしまったため、自然に免許返納となりました。

7.まとめ

免許の返納については、運転者に対してご家族が不安に感じた時点で本人とよく話し合いましょう。自主返納をすることがご家族にとって最も安心です。車の運転は誰かを傷つけ、加害者のご家族の人生を脅かす可能性があることを忘れてはいけません。日頃からご家族で免許返納について話し合いを持ちましょう。いきなり年を取る訳ではありません。前もって、免許返納の時期にご家族で備えていくことが大切なのです。

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