認知症の成年後見制度を解説!つけるべき人、つけなくてもいい人とは

認知症の成年後見制度を解説!つけるべき人、つけなくてもいい人とは
2017-12-04

「今までに、騙されて何か購入したことはありませんか?」

これは私が認知症外来で患者さんやそのご家族に必ずお伺いしている質問です。

認知症高齢者は、計算能力が低下し財産の管理は非常に困難になります。現在の契約社会のなかで生活していくには、不安が残ります。相続をめぐる争いも後を絶ちませんし、高齢者を狙った犯罪も手口が特殊化する一方です。

そのため認知症高齢者をめぐる財産管理には、社会的なバックアップが必要です。これらに対応する制度として「成年後見制度」があるのです。

しかし、成年後見制度はつける以上につけてからが大変です。このことを知らずに安易に成年後見制度を考えられる方が少なくないようです。

私は、認知症専門外来で多くの成年後見制度の診断書を経験しています。今回の記事では、そこで学んだ「成年後見制度をつけるべき人、つけないほうがいい人」を例に、この制度の内容をご紹介します。

1.成年後見制度とは

成年後見制度は、判断能力が不十分な方を法律面や生活面で保護したり支援する制度で、成年後見人が患者さん(被後見者)に代わって契約を行ったり財産の管理をするようになります。

成年後見人の対象の多くは、認知症、精神発達遅延等となります。特に認知症患者さんは現在約462万人もおり、今後はさらに増加が予想されるので、成年後見制度を利用される方も増えていくと思われます。

2.高齢者本人を守る制度が必要な理由

私の患者さんでも、口車に乗せられて高価かつ効果が不確かな健康器具、サプリメント、布団一式、鍋一式等を買わされる方が多いです。最近では銀行や郵便局の方さえも“元本が保証されていない投資信託”を売りに来るので注意が必要です。

ちなみに私が患者さんのことで消費者センターに電話した際の話です。「購入額は幾らですか?」「70万円程度です」「それは良かったですね、被害額では少ない方ですよ…」とのことでした。

ちなみに私の患者さんで騙された?最高額は500万円です。それはなんとお寺への寄付でした。子供さんたちが警戒していたにもかかわらず、住職が「お父さんと二人で話がしたい」とのこと。そのうえでよくわからないお布施(被害?)となったのです。今の時代、何を信じていいか分からないものです。

時々は、高齢者の家を訪ね見慣れない商品が置かれていないか注意されることをお薦めします。

Senior Man Giving Credit Card Details On The Phone
高齢者の財産を奪う手口は巧妙化しています

3.誰が後見人になれるのか

後見人になれる方は限られています。当初は家族による後見が多かったのですが、最近は、弁護士や司法書士などの専門職に依頼される方が増えています

3-1.親族後見人

親族が後見人となるケースです。内訳は、親、子、兄弟姉妹、配偶者です。現在、この割合は29%しかありません。

3-2.職業後見人(成年後見制度)

身内が居ないケースでは、専門職が後見人になります。具体的には、司法書士、弁護士、社会福祉士です。

4.何をしてくれるのか

成年後見人は、認知症等により本人の判断能力が十分でなくなったときに、親族等の申出により、家庭裁判所の審判で選任され、本人の身上看護・財産管理に関する事務を行います。

4-1.財産管理

成年後見人は本人の財産すべてを管理し利用できることになります。ただし前提として、「本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮」しなければなりません。通帳・印鑑・年金通帳・権利書等を管理することも重要な仕事です。

4-2.身上看護

例えば、

・介護サービス契約の締結

・アパートの賃貸借契約

・施設の入退所等に関する契約の締結

・医療契約の締結、教育・リハビリに関する契約 等 があります。

4-3.医療同意権は含まれない

成年後見人の財産管理等には全責任を負う事になります。しかし、「手術をするかしないか?」さらに「延命を希望するか否か?」といった医学的判断を行うことはできません。

今後、一人暮らしの方が増え、関係者が職業後見人の方しかいなくなるケースも予想されます。この後見人は医学的判断ができませんし、患者さんも認知症が進むと判断はもちろんコミニュケーションをとることもできなくなります。医療の現場からすると、改善を希望したいものです。

5.成年後見人の心得

成年後見人は、ある意味「保証人」です。親族であれば、メリットはなく負担だけが強いられます。

5-1.成年後見制度は「本人のため」の制度

後見人が勝手に本人の財産を移動することはできません。

必要であれば家庭裁判所の許可を得て本人の財産を売却したりできますが、それは必ず本人の利益になるものでなければなりません

5-2.「周囲の家族のためではない」の意味

よくある勘違いとして、認知症の親の銀行口座からお金を引き出して使いたいから成年後見人になりたいという要望があります。

しかし、それは本人の財産を減らすだけですので家庭裁判所から許可されません。仮に本人が正常だったらお金を贈与してくれるような状況であっても、成年後見制度を利用してしまうと、本人のお金を引き出して自分の用途に充てることはできなくなるのです。私の経験では、長年飲んでいたサプリメントの費用を家庭裁判所で否認された患者さんがいらっしゃいます。

5-3.毎年の負担

成年後見を適用すると、本人の財産をしっかり管理して家庭裁判所に毎年報告をしなければなりません。電気・ガス・水道などの領収書もきちんと取っておき年間の収支を間違いなく報告します。つまり、後見人の負担は重いのです。この点をよく理解したうえで、後見制度を利用する必要があります。経済的余裕があれば、職業後見人がお勧めです。

6.成年後見人の認定基準とは

現在の法律では、契約等を行う場合、意思能力の有無が重要となります。意思能力は「各人が最低限、行為の結果を弁識するに足るだけの精神能力があることで、だいたい7~10歳程度の精神能力を有すること」が要求されます。これ以下だと意思無能力と判断されます。認知症の側頭葉機能を評価するMMSE検査が一つの指標になります。以下に基準を示します。

MMSEスコア 重症度 精神能力 対応
15〜23点 中等度 5〜7歳 補助もしくは保佐
14点以下 高度 4歳以下 成年後見

つまり、MMSEが23点以下であれば、契約自体が無効となる可能性が高くなります。同時に、成年後見人の必要性も高くなります。一般には14点以下で後見人、15から23点で補助もしくは保佐を検討すべきです。

MMSE
MMSEシートの一部

ただし、「MMSE」の点数も重要な要素ですが、「成年後見の状態であるか否か」という判断は、点数によってのみ決まるわけでもありません。


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最高裁判所が医師向けに発表した「新しい成年後見制度における診断書作成の手引き(2011)」によれば、成年後見制度の3段階(重い方から、後見、保佐、補助)について、次のように説明されています。

A・後見  自己の財産を管理処分できない程度に判断能力が欠けている者。日常的に必要な買い物も自分ではできず誰かに代わってやってもらう必要がある程度の者。

B・保佐 判断能力が著しく不十分で、自己の財産を管理・処分するには、常に援助が必要な程度の者。日常的に必要な買い物程度は単独でできるが、不動産、自動車の売買や自宅の増改築、金銭の貸し借り等、重要な財産行為は自分では出来ないという程度の判断能力の者。

C・補助 判断能力が不十分で、自己の財産を管理、処分するには援助が必要な場合があるという程度の者。重要な財産行為は自分でできるかもしれないが、できるかどうか危ぐがあるので、本人の利益のためには誰かに代わってやってもらった方がよい程度の者。

では、「『日常的に必要な買い物も自分ではできず誰かに代わってやってもらう必要がある程度の者』という状態の境界線はどうなるのか?」、相変わらず曖昧です。境界線付近においては、医師各自で判断するしかないのです。

つまり、診断書を作成する医師が、テストの数値だけで決められるような基準設定ではないのです。あくまで「本人や家族の幸せのためになると考えれば、そのように書いても良い」という案内なのです。

そのため、医師に成年後見申立用に診断書を書いてもらうときには、日常の本人さんの生活の状況についてできるだけ具体的に正確に医師に伝えることが大切なのです。

ただし、診断書だけで決まるわけでなく、家庭裁判所のチェックも入り、微妙なものには改めて家裁が「鑑定」を命じて再チェックするという仕組みも用意されています。

Senior woman in hospital
判断がほとんどできなかったり、意思の疎通が極めて困難な方は成年後見の対象となります

7.成年後見人と保佐人・補助人の違い

成年後見人はすでに、判断能力が欠けている人につきますが、保佐人及び補助人はまだ判断能力がある人につきます。従って、保佐人、補助人の選任には、後見人の場合と異なり、本人の同意が必要となります。主な権限を紹介します。

7-1.成年後見人の権限

日常生活に関する行為を除き、成年後見人がすべての法律行為に関して、同意権・取消権・代理権を行使できます。ただし、不動産の処分などに関する行為は、本人にとって大きな影響がありますので、裁判所の許可申立てが必要になります。

7-2.保佐人の権限

民法13条第1項(借財、保証、不動産その他重要な財産の売買等)で規定されている重要な法律行為に関して同意権があります。

7-3.補助人の権限

民法13条第1項(借財、保証、不動産その他重要な財産の売買等)の行為の中で家庭裁判所が補助人にあった行為を選びます。

7-4.民法13条第1項で規定されている行為

上記にあった民法で規定されている行為とは下記のものです。

1.貸付金・貸付不動産の返済を受けたり、または、逆に貸し付けたりすること
2.借金を借り入れたり、他人の借金の保証人になったりすること
3.不動産など重要な財産の売却処分などを行うこと
4.訴訟を起こしたり、取り下げたりすること
5.贈与をしたり、和解したりすること
6.相続の承認や放棄、遺産分割をしたりすること
7.贈与を受けるのを拒絶したり、遺贈の放棄をしたりさらには、負担付贈与、負担付遺贈を承認したりすること
8.建物の新築、改築、増築、修繕を行うこと
9.長期の賃貸借契約をすること

8.後見によって失うものとは

後見制度(後見類型)や保佐制度が始まると、本人からは様々な権利が剥奪され、社会的地位を喪失します。主なものを挙げますと、

・印鑑登録が抹消され本人の印鑑登録証明書が取れない

・取締役の欠格事由で、役員報酬請求権を喪失

・公務員の欠格

・NPO法人の理事・監事の欠格

・弁護士、司法書士、公認会計士、税理士、行政書士、弁理士、医師、歯科医師、建築士、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士などの専門的資格の欠格事由

になります

9.成年後見人をつけるべき人とは

申し立ても手間がかかるし、つけてからも想像以上に大変な成年後見人ですが、やはりつけるべき人もいらっしゃいます。

9-1.過去に騙されたことがある人

騙されたことが過去にある場合、ご家族は「一度騙されたから、その後は大丈夫だろう」と思いがちです。しかし騙される人は、何度も騙されます。業者間で、情報が回っているようです。仮に騙された場合でも、成年後見人が付いていれば、比較的容易に返金に応じてもらえます。何しろ、契約自体が無効であることが明確ですから。

私の患者さんでは、玄関に「うちのおばあちゃんは、成年後見人がついています」と張り紙をしている方もいらっしゃいます(本当はついていないんですが…)。

9-2.相続人の数が多い人

兄弟が多いと、財産管理をしている人が、他の兄弟から疑われることがあります。それを防ぐためにも、身内もしくは職業後見人をつけましょう。財産状況が明確になるので、醜い争いを避けることができます。

9-3.身内の中で、財産を使い込む人がいる

他人以上に厄介なのが「身内」です。身内が勝手に使い込んで、貯金が予想以上になくなってしまう方がいらっしゃいます。この場合は、職業後見人が有効です。

9-4.身内がいない人

最近は、一人暮らしの方も増えています。財産管理ができなくても、成年後見制度を申し立てる親族がいない場合があります。配偶者や四親等内の親族がおらず申し立てることが出来ない場合、市長が代わりに家庭裁判所へ申し立てることが出来ます。

10.つけなくてもいい人とは

弁護士さんたちは、認知症になれば後見人をつけるべきと言われます。「自身の仕事が増えるから?」と勘ぐってみたくなります。ここでは、あえてつけないほうが良い例をご紹介します。

10-1.子供が一人っ子

誰も文句を言う人もいません。逆に一人しかいない子供さんが全責任を負うしかないのです。ご自身がすでに裕福で、親の財産をアテにしなくてもいい場合は、職業後見人を付けることはよいでしょう。

10-2.資産家

資産家の方は、あえて借金をしてマンションやアパートを建設して相続対策をすることが多いです。しかし、成年後見人は家族のためでなく本人のためのものですから、この節税対策を行うことができなくなります。

10-3.中小企業の経営者

中小企業の経営者は、会社の株も持っているものです。このような方は事業継承のために、後継者に毎年、株式を贈与することがあります。しかし、これも本人の資産を減らすことになりますから、認められません。

経営者の場合は、会社への個人貸付も重要です。親が会社に金銭を貸し付けた状態で、子供さんが経営を引き継いだとします。そうすると、子供さんは、親の成年後見人にはなれません。なぜなら、会社を介して子供さんは親からお金を借りていることになるからです。

つまり、利益相反となるのです。実際、私の患者さんでも立派な息子さんがいらっしゃるのに、個人貸付があるために家庭裁判所で親族後見人が認められないケースがありました。その結果、費用を払って職業後見人に依頼されている方がいらっしゃいます。

11.まとめ

  • 成年後見人はつけるだけでなく、つけてからも大変です。
  • 成年後見制度は、つけるべき人と、つけないほうがいい人がいます。
  • ご自身の状況を鑑みて、慎重に検討しましょう。
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