治療費1800万円の可能性も!認知症薬「アデュカヌマブ」は必要?

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AI (Artificial Intelligence) concept.

エーザイ株式会社(以下、エーザイ)が、米バイオジェン社と開発中のアルツハイマー型認知症の治療薬候補「アデュカヌマブ」が世界的に話題です。おかげで、エーザイの株価は8,000円前後と高値で推移しています。しかし、この薬が認可されると莫大な医療費の負担が予想されます。はたしてそこまでして認可すべき薬なのでしょうか?

今回の記事では、月に1,000人の認知症患者さんを診察する脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、「アデュカヌマブ」の価値についてご紹介します。

 1.「アデュカヌマブ」とは?

まず、エーザイがバイオジェンと開発した「アデュカヌマブ」とはどんな薬なのか解説します。

1-1.作用機序

今回の「アデュカヌマブ」は認知症の原因物質とされる脳内のたんぱく質「アミロイドβ」を標的としています。アデュカヌマブは沈着する直前や沈着後をターゲットしてアミロイドβの蓄積を防ぎます。

1-2.いったんは治験を中止した経緯がある

2019年3月21日には、エーザイは「アデュカヌマブ」について、臨床試験(治験)を中止すると発表しました。3段階で進む治験の最終段階に入っていましたが、十分な治療効果を証明できない見通しが強まったからです

1-3.再度、承認申請の不思議

いったん治験を中止したはずなのに、2019年12月19日以下のような記事が発表されました。

”バイオジェン・ジャパンは、東京で事業説明会を開き、早期アルツハイマー病治療薬として開発中のアデュカヌマブについて、日本で2020年に承認申請する予定であることを明らかにした。米国では20年早期に申請予定。同剤が承認された場合、早期アルツハイマー病の臨床症状悪化を抑制する最初の治療薬になるとともに、アミロイドベータの除去が臨床上のベネフィットをもたらすことを実証する世界初の薬剤となる。”(出典:ミクスオンライン「バイオジェン 早期アルツハイマー病薬アデュカヌマブ 20年に日本で申請予定」)

Alzheimer's disease - neurons with amyloid plaques

アデュカヌマブはアミロイドβ仮説に基づいた新薬です

2.いったんは治験を終了したのに無理矢理?

いったんは治験を中止した、「アデュカヌマブ」がなぜ承認申請までたどり着けたのでしょうか?

アデュカヌマブは2019年3月、日本を含む2本の国際共同フェーズ3試験「EMERGE試験」(803例)と「ENGAGE試験」(945例)の解析の結果、効果があると実証される可能性が低いと判断され、試験を中止しました。

しかし、解析後に得られたデータを加えて最終解析(EMERGE:1,638例、ENGAGE:1647例)したところ、対象を調整し、高用量投与群増やすことで、当初の解析とは異なる結果が得られたのです。

具体的には、「解析により、いったん治験を終了させられた早期アルツハイマー病患者さん」に、高用量の投与で効果があったということです。

Business statistics concept.

効果のありそうな例に絞って再度結果を導き出したと言えなくもありません

3.「アデュカヌマブ」の費用は?

かなり強引な治験結果の解析です。これには、是が非でも「アデュカヌマブ」を薬として承認したいエーザイの思惑があるといえます。

3-1.抗体医薬は高価になってしまう

アデュカヌマブは抗アミロイドβ抗体といって抗体医薬と呼ぶバイオ医薬品です。そのため、通常の飲み薬のような錠剤やカプセル剤と違って量産が難しく製造コストが高くなります。

*抗体医薬品とは?:がん細胞などの細胞表面の目印となる抗原をピンポイントでねらい撃ちするため、高い治療効果と副作用の軽減が期待できる

3-2.治療費1,800万円?

他の抗体医薬品の値段から考えると、アデュカヌマブの費用も治験のような投与方法では、1回100万円で月1回を18か月の投与が必要になるのです。そうなると、総額約1,800万円の治療費になってしまうのです。

3-3.国の負担増は、エーザイの利益増?

アデュカヌマブが対象とする疾患は、認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)が対象です。厚生労働省によると、65歳以上でMCIの人数は推計400万人です(2012年時点)。仮に、治療対象が1%の4万人としても医療費は7200億円、5%だと3.6兆円になります。国にとっては莫大な負担ですが、エーザイにとっては、莫大な売り上げにつながるのです。

4.そもそもMCIに高額治療が必要か?

誤解してはいけないのは、アデュカヌマブはすべてのアルツハイマー型認知症に効くわけではありません。今回の実験でも、効果が認められたのは認知症の前段階のMCIを対象として、安全上許される上限の高容量を投与した場合だけです。

4-1.MCIを、なぜそこまで恐れる?

MCIは、認知症ではなく認知症になる可能性が高いという病態です。簡単に言えば、「ちょっと変」程度で、日常生活に問題はありません。MCIの診断を受けた人がすべて認知症になるわけでなく、十分に回復するケースも多々あります。

4ー2.MCIは加齢変化の一つといえる

私は個人的には、MCIは加齢変化の一つと考えています。厚生労働省は、400万人と推計していますが、認知症専門外来の印象では1000万人はいる印象です(認知症の462万人は含まずに)。それほどの数がいれば、治療対象とすること自体に無理があります。

4-3.MCIには従来の抗認知症薬で十分対応可能

そもそもMCIは、軽度認知障害ですから神経細胞自体の数も残っています。従って、その神経細胞間の流れを良くする従来の抗認知症薬でも十分効果があります。1800万円をも費用が必要とは考えられません。

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早期認知症では、周囲に迷惑をかけることは少なく、既存の治療が奏功する場合も多々あります

5.アデュカヌマブはどうなる?

個人的には、莫大な費用ほどの価値があるとは思えないアデュカヌマブですが、今後はどうなるでしょうか?

5-1.承認されるか?

アデュカヌマブのように治験の途中に待ったがかかり、その後のデータ解析で有効性が確認できたた「復活劇」は新薬開発では珍しく、アメリカ食品医薬品局が承認するかについて専門家の意見は、五分五分とみられているようです。

5-2.政治力次第?

新薬には巨大な利権が絡みます。アデュカヌマブの承認によって巨大市場が予想される場合は、政治力、さらには製薬業界に天下った元官僚達の力が発揮されてしまう恐れがあります。

5-3.アミロイドβ仮説の真偽?

私個人では、アルツハイマー型認知症の原因は「アミロイドβ」のみとは考えていません。アデュカヌマブはアミロイドβ仮説に基づいた薬です。認知症の原因がアミロイドβでなければそもそも効果があるわけがないのです。

*アミロイドβ仮説:脳内の神経細胞外でアミロイドβペプチドが凝集・沈着する老人斑(アミロイド病理)が引き金となって、微小管結合タンパク質の一つであるタウタンパク質がリン酸化されて、細胞質中で線維化・凝集する神経原線維変化(タウ病理)の形成、神経細胞死に至る

6.限定利用の可能性はある

個人的には、MCIを対象として最高容量でしか効果を示さないアデュカヌマブの承認は不要と考えています。しかし、以下の患者さんに限定しての利用は意味があると考えています。

6-1.若年性アルツハイマー

65歳未満に発症するアルツハイマーの患者数は全体の5%ほどです。進行も早く、従来の抗認知症薬では効果がありません。さらに、生活苦といった病気以外の問題も生じます。そこで、少しでも可能性があるアデュカヌマブの使用は認めてあげたいものです。

6-2.アポE遺伝子4・4の患者さん

認知症のリスクを高めるAPOEフェノタイプが4・4の患者さんは、同年齢でも脳は23歳加齢変化が進行していると言われています。やはり進行も早く、従来の抗認知症薬では効果がありません。少しでも可能性がある、アデュカヌマブの使用は認めてあげたいものです。アポE遺伝子については以下も参考になさってください。

認知症に遺伝はある?認知症のリスクを高めるアポE遺伝子を解説!

7.まとめ

  • エーザイが承認を目指すアデュカヌマブはいったん治験では効果がなかったものを、対象と容量を変えることで無理矢理効果を導きだしたものです。
  • すべての認知症に効果があるわけでなく、MCI(軽度認知症)に効果があるだけです。
  • アデュカヌマブの効果が、1,800万円の費用に値するとは考えられません。
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