一滴の血液によるアルツハイマー型認知症の測定が救世主にならない理由

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先日、一滴の血液でアルツハイマー型認知症が診断できるというニュースが新聞報道等で取り上げられました。そんなに簡単にアルツハイマー型認知症が診断できれば、認知症も治ってしまうのではと感じてしまいます。しかし、専門医としては今回発表された診断方法自体には、それほど大きな意味はないと感じています。それはなぜでしょうか。

今回の記事では、月に1,000名の認知症患者さんを診察している専門医の長谷川嘉哉が、多様な原因で発症する認知症特有の難しさをご紹介します。

1.血液1滴でアルツハイマーが診断可能?その内容は?

記事を紹介します。

高齢者の認知症の原因で最も多いアルツハイマー病の診断を1滴に満たない量の血液検査で行う方法を、名古屋市立大医学研究科長の道川誠教授(神経生化学)らの研究グループが発見した。グループはすでに製薬会社と検査キットの開発を進めており、医療現場での実用化に向け、臨床研究を経て2~3年以内に国の承認を得たいとしている。

アルツハイマー病の現在の診断方法には、針を刺して脳脊髄液を採取する検査や、陽電子放射断層撮影装置(PET)で放射線を当て、脳の表面に映る斑紋などを調べる画像診断がある。ただ、脳脊髄液検査は患者の負担が大きく、PETは機器や使用する試薬が高額なため、臨床現場での診断は普及していない。

グループはアルツハイマー病の発症者と未発症者の血液を比較し、タンパク質の一種「フロチリン」の量に差があることに着目。発症者と未発症者の血液を分析すると、発症者の方が明らかにフロチリンの量が少なく、検証実験では9割の確率で識別できた。アルツハイマー病の前段階である「軽度認知症(MCI)」の患者の分析でも同様の結果が示された。(中日新聞2019年11月6日号朝刊より

2.血液検査は「割れた花瓶の破片を調べること」とは

cropped view of female scientist doing blood test in laboratory

認知症であることがわかっても、対応の仕方には結びつきません

私自身は、今回の認知症の診断方法や、さらには昨今の新薬の開発については、いずれも大きな戦略ミスをしていると感じています。

2-1.認知症の原因は一つではない

例えば、結核という病気は結核菌が原因です。ですから、結核菌を殺せば結核自体が治癒してしまいます。しかし、認知症の原因は一つではありません。認知症は多くの要因が絡み合って発症しているのに、多くの研究者は、結核のように決め手となる一つの原因を探している状態なのです。

2-2.認知症は、あくまで「結果」にすぎない

認知症とはあくまで結果です。したがって、今回の血液1滴による診断は、言い換えると「割れた花瓶の破片を調べる」ようなものです。割れた花瓶の破片を調べても意味はありません。調べるべきは、花瓶が割れた原因なのです。このような、戦略ミスをする原因の一つが、研究者が実際に認知症患者さんを診ていないからです。実際、私が講演でご一緒した基礎医学の認知症研究者は、医師の資格は持っていても患者さんを診る機会は殆どないそうです。

2-3.認知症の診断は臨床症状

ちなみにこの記事では、認知症の診断は脳脊髄液や陽電子放射断層撮影装置(PET)で行うと紹介されています。しかし、認知症の診断で最も大事なのは「症状」です。当院には、「1年前に大きな病院で画像検査をしたが異常がなかった」というような患者さんが集まっています。彼らの主治医は、画像所見のみを頼り、臨床症状を診ないために早期の発見を見落としているのです。

3.花瓶が割れた理由はたくさんある

Flowers with broken vase

割れた花瓶の破片を調べてわかることは何でしょうか

花瓶が割れた原因は、何でしょうか?つまり、認知症になる原因は以下のようなものです。

3−1.素因

そもそも、花瓶の材料、焼き入れ、染料などが悪いと花瓶は割れやすくなります。つまり、認知症でいえば、遺伝子的な素因、家族歴などが原因となることもあるのです。詳しくは以下も参照なさって下さい。

認知症に遺伝はある?認知症のリスクを高めるアポE遺伝子を解説!

3−2.内因要因

花瓶でいえば、置かれている環境でしょうか?あまりに劣悪な環境で、手入れもされなければ、ほこりをかぶって劣化が早まります。人間でいえば、生活習慣病であり、歯の手入れになります。詳しくは以下も参照なさって下さい。

認知症の大きな原因に歯周病が!専門医が医学的知見と実体験から解説

3−3.外因要因

花瓶でいえば、風や物が飛んできて、倒れててしまって割れた状態です。認知症でいえば、転倒や交通事故による外傷やクモ膜下出血による脳全体へのダメージです。

3−4.経年変化

素因が良くて、内因・外因要因がよくても、経年変化には勝てません。個人差はありますが、脳にも衰えがくることもあります。まさに人間でいう寿命です。

4.長谷川が提案!アルツハイマー型認知症の「新しい分類」

ご紹介したように、アルツハイマー型認知症は、一つの要因では発症しているわけでないので、さらなる分類も必要かもしれません。以下に私なりの分類を挙げてみました。

4−1.遺伝性アルツハイマー型認知症

残念ながら、ある一定数、遺伝性による認知症患者さんがいらっしゃいます。これについては、研究者の方に、遺伝子の解析、さらには治療に結び付けてもらいたいものです。ただし、このような遺伝子にともなう患者さんは全体ではそれほど多くはありません。遺伝子の認知症については、以下にご紹介する映画も参照なさって下さい。

映画「アリスのままで」レビュー・専門医が語る若年性認知症の現実

4−2.生活習慣病性アルツハイマー型認知症

脳血管障害、糖尿病、高血圧はいずれも認知症の原因となります。講演などでも、「生活習慣病も認知症予防には重要です」と伝えると、皆さん、つまらなさそうな顔をされます。しかし、やはり地味ですがとても大事な対策です。

4−3.歯科原因性アルツハイマー型認知症

生活習慣病性とかぶるところもありますが、あえて歯科は別にしてみました。それぐらい、歯科、とくに歯周病が認知症をはじめとする全身疾患に関係しています。ある意味、「口の中は生き様」と言えます。定期的に口腔ケアを行っている方は、生活習慣をはじめとする生き方すべてが整っているのです。

4−4.廃用性アルツハイマー型認知症

実はこれが一番多いのです。頭も体も、使わなければ廃用性に衰えていきます。そのための、原動力となるのが意欲です。そんな意欲が低下することで認知症が発症進行してしまうのです。

5.まとめ

  • 認知症が一滴の血液で診断されることは、あまり大きな意味はありません。
  • そもそも、測定自体が、割れた花瓶の破片を見ているようなものです。
  • 本来の認知症の対応・研究は、花瓶が割れた原因を調べる必要があるのです。
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