鉄欠乏性貧血・鉄剤継続のポイントは?測定項目の知識を専門医が解説

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Tired businesswoman in the office with laptop and coffee

鉄欠乏性貧血は,貧血の中で最も頻度が高い疾患です。特に女性に多く、日本人女性の半数が鉄欠乏状態で、約500万人が鉄欠乏性貧血といわれています。外来などでも、血液検査で明らかな鉄欠乏性貧血を示してい ても,患者自身が貧血の症状を自覚していないケースがかなりあります。そして鉄剤の使用により貧血が改善してはじめて、疲れやすさや、動いたり作業するときに息切れを起こしやすかったことに気づく患者さんも多いのです。

しかし多くの患者さんが、ヘモグロビンの値が改善すると鉄剤の服薬を止めてしまい、再び貧血になることを繰り返します。本来、適切な鉄剤治療、常に元気になれる鉄欠乏性貧血患者さんがたくさんいらっしゃるのです。今回の記事では、認定内科専門医の長谷川嘉哉が、鉄欠乏性貧血について正しい付き合い方をご紹介します。

1.鉄欠乏性貧血とは?

Anemia level of blood cells

貧血。ヘモグロビンを構成する鉄分が不足して起きるのが鉄欠乏性貧血です

血液の中で酸素を運ぶ役割を担っているのが赤血球の中のヘモグロビン(=Hgb)です。ヘモグロビンが不足して体内の酸素も不足してしまう状態が貧血です。その中でヘモグロビンを構成する鉄が不足することによって起こる貧血を鉄欠乏性貧血といいます。

2.鉄欠乏性貧血の症状

実はまったく自覚症状がなく、健康診断や検診の採血結果で初めて貧血が指摘される方もかなりいらっしゃいます。症状がある場合は以下のようなことが起きやすいです。

2-1.代表的な自覚症状

  • 動悸・・少しでも酸素を運ぼうと心拍数が増えるため
  • 息切れ・・少しでも体内に酸素を取り込もうとするため
  • 倦怠感・・体を動かす筋肉の酸素が不足するため
  • 味覚障害、舌のひりひり感

2-2.他覚所見

  • 顔色不良・・顔色が青白い、白いと言われる。
  • 匙状爪(さじじょうそう)・・爪が反り返る、割れやすく、もろくなります
  • 眼瞼結膜・・貧血の場合、眼瞼結膜が白くなると言われます。但しそこに至るためには、ヘモグロビンが10㎎/㎗以下とかなり進行した状態です。
The effect of Anemia on skin blood flow in human.

肌の色が変わることも、わかりやすい症状の一つです

2-3.氷食症

氷を異常なほどに食べることは、異食症の一つで、氷食症(ひょうしょくしょう)と呼ばれています。氷食症は鉄欠乏性貧血の患者さんに高い確率でみられます。実際、患者さんに聞いても、「知らないうちに氷を口にしてしまう」と言われます。しかしその原因は、「強い精神的ストレス」、「貧血に伴う口腔内の炎症を抑えようとするため」、「氷を噛むことによって反射的に脳血流を増加させている」など,さまざまな説明がなされていますが、明確な機序はわかっていません。

3.鉄欠乏性貧血の診断

鉄欠乏性貧血は、以下の採血項目によって診断します。お恥ずかし話ですが、開業医の中には、鉄欠乏性貧血の診断に必須のフェリチンを採血せずに、貧血=鉄欠乏性貧血と診断している医師もいます。

3-1.ヘモグロビン値

ヘモグロビンの数値が12g/dl未満で貧血と判定します。治療が必要と考えられる数値10g/dl程度ですが、年齢や他の数値などを考慮して総合的に判断します。

3-2.MCV

通常の採血で行われる末梢血の検査項目の中にMCVというものがあります。MCVは赤血球の平均的な大きさを示し、正常時は80-100flの数値を示します。鉄欠乏性貧血では、60-70flまで低下します。このタイプの貧血を、赤血球大きさが小さいために、小球性貧血と呼びます。

3-3.血清フェリチン値(貯蔵鉄)の数値

診断・経過観察のおいて、必須の検査項目です。血清鉄が血清中に存在する鉄の量を表すのに対し、血清フェリチンは貯蔵鉄の量を反映します。測定値が10未満では鉄欠乏状態と判定します。フェリチンが低下する病態は鉄欠乏性貧血以外にないので確定診断となります。なお血清フェリチン値は通常の検査では測定されませんので、貯蔵鉄の不足は見落とされがちです。

4.鉄欠乏性貧血の原因

鉄欠乏性貧血の原因は、体内に鉄が不足しているのが一番の原因です。以下の3つのケースに分けられます。

4-1.鉄の摂取不足

食事のバランスが悪かったり、食事の量が少なすぎたりすると、食事から鉄分を摂取することができなくなります。ダイエットなども貧血の原因となります。また、妊娠などにより鉄の需要が増えると、相対的に摂取が不足することもあります。

Ingredients and products containing iron and dietary fiber, healthy nutrition

鉄が多く含まれる食品をとることで予防改善できる可能性が高まります

4-2.鉄の吸収障害

鉄分の吸収は胃や小腸で行われるため、手術で胃を切除した後などは食事でとった鉄分が十分吸収されず、鉄分が不足することがあります。

4-3.婦人科疾患&消化器疾患

赤血球中には多くのヘモグロビンと鉄が含まれています。何らかの形で出血が多くなると、ヘモグロビンと鉄が失われ、鉄欠乏性貧血となります。

そのため、女性の場合は婦人科疾患(子宮筋腫、子宮がんなど)を、閉経後女性と男性では消化管疾患(胃十二指腸潰瘍、ポリープ、がんなど確認が必要です。女性の患者さんは婦人科受診を勧めます。消化管出血の検査はまず便の中に出血が混ざっていないかを調べるため『便潜血反応」の検査をします。もし便潜血が陽性であれば、胃から肛門までの間に出血源があることが予測されるので胃カメラ、大腸カメラの検査が必要になります。

5.治療薬

鉄欠乏性貧血の治療にあたっては、鉄欠乏の原因を明らかにすることが必要です。検査所見で、ヘモグロビンが低下し、MCV低値、フェリチンが低値、さらに婦人科疾患や消化器系の疾患が否定できれば、鉄欠乏性貧血として鉄剤を投与します。体内に鉄分を補充することで、ヘモグロビンの合成を促進し赤血球を増やして鉄欠乏性貧血の症状を改善します。

5-1.基本は経口剤で

鉄剤には、口から服用するものと、静脈を経由して行う場合があります。しかし、経口剤の方が副作用が出にくく、費用も安いため経口用鉄剤が第一選択です。注射用鉄剤は経口用鉄剤の投与が困難/不適当な場合に限り適応とななります。

5-2.経口剤の錠形

  • 内用薬:錠剤ではフェロミア錠50mg、フェロ・グラデュメット錠105mg
  • 顆粒剤:呑み込みが悪い患者さんには、顆粒としてフェロミア顆粒8.3%を使用します。
  • 液体:錠剤の顆粒も飲み込みにくい場合は、インクレミンシロップ5%も喜ばれます。ただし、お茶などのタンニンを含む飲食物と一緒に摂取すると薬の吸収が低下するので、同時の摂取は避ける必要があります。

5-3.副作用は

鉄剤の副作用では腹痛,悪心,嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状が、1~2 割の患者さんにみられます。しかし、この消化器症状はおおよそ1~2週間経過したところで改善します。それでも症状が強い場合は鉄剤を変更する、食事中に鉄剤を飲む、減量するなどで対処することが可能です。たとえ消化器症状が強い場合にも自己中断せず必ず主治医に相談してください。

また、鉄剤を飲むと便が黒くなりますが,それはお薬が原因ですから心配は不要です。

6.薬の継続はフェリチンの数値が重要とは

診断の際に、血中のフェリチンの測定が重要ですが、鉄剤の効果、継続するか否かの判断にもフェリチン測定が必須です。

6-1.鉄剤服薬でヘモグロビン値は1〜2か月で改善

ヘモグロビンは鉄剤治療を始めると6〜8週間で正常化します。しかし、ここで薬を中止してしまうと貯蔵鉄であるフェリチンがない状態ですので、すぐにまた鉄が不足し、貧血となってしまいます。実際、フェリチンを測定しない医師は、ヘモグロビンが改善すると、投与を中止してしまうのです。

6-2.フェリチンが改善するまで

表面上、ヘモグロビンが改善しても、フェリチンの値が十分になるまでは投与を継続します。つまり、貯金(貯鉄?)が十分できたと判断できる数値になるまで鉄剤を投与する必要があります。そのためには、最低6か月程度の内服が必要となります。

ただし、フェリチンが著しく高値になる程度までの服用は不要です。先日も近所の泌尿器科から転院された患者さんがいらっしゃいました。継続して鉄剤が服薬されていたためフェリチンを測定しました。そうするとヘモグロビンは正常で、フェリチンは500ng/mLを超えていたためすぐに中止しました。フェリチンを定期的に測定したとは思えないケースでした。

6-3.中止後も定期的にフェリチンでフォロー

鉄剤を中止した後も3〜6か月に1回程度の定期フォローが必要です。その際もフェリチン測定が必須です。仮にヘモグロビンが正常でも、フェリチンが低下してきた場合は貧血になる前に鉄剤を投与して正常化する必要があります。

7.サプリメントはお勧めしない

気楽にサプリメントで鉄欠乏性貧血を予防したり治療したいと思いがちです。しかし、以下の理由で私はお勧めはしません。

7-1.診断は?

貧血はすべて鉄欠乏性ではありません。診断には、ヘモグロビンだけでなくフェリチンの採血も必要です。仮に鉄欠乏性貧血であっても、場合によっては婦人科系疾患や消化器疾患を否定する必要があります。明確な診断に基づかないサプリメントは危険でさえあるのです。

7-2.どこで増やし、どこで減らすか

かりに鉄欠乏性貧血の診断がついても、定期的な採血をしなければ、鉄剤が足りているのか過剰なのかの判断ができません。場合によっては、鉄剤を中止するレベルでも無駄に服用することにもなりかねません。

7-3.含有量が不明確

私がサプリメントをみても、正直とても分かりにくいです。鉄剤がどの程度含まれているのか? 他の成分も含まれていたり、それが必要なのか否か? とても分かりにくいです。医師の目から見ても分かりにくいわけですから、一般の方は医療機関受診がお勧めです。但し、採血項目にフェリチンを含めない医師は避けましょう。

8.まとめ

  • 鉄欠乏性貧血であっても無症状の方もいらっしゃいます。
  • 鉄欠乏性貧血の診断に際しては通常のヘモグロビン、MCVに加え血清フェリチン測定が必須です。
  • 鉄剤投与後の、継続・中止・再開に際しても、血清フェリチンを指標とします。
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