シェーグレン症候群とは。口中乾燥の放置リスクを医師が解説

シェーグレン症候群とは。口中乾燥の放置リスクを医師が解説
2018-06-11

日々の外来で口や喉の渇きを訴える患者さんは結構いらっしゃいます。このようなとき、医師としては、通常糖尿病を第一に疑います。その結果糖尿病であればその治療を行います。しかし、糖尿病でないケースも結構あります。そんなときに疑う必要がある疾患が、シェーグレン症候群です。正直それほどいないだろうと思っていたシェーグレン症候群の患者さんは、診断基準に基づくとかなりいらっしゃることがわかりました。

この疾患が引き起こす口腔内の乾燥は、口腔内環境を悪化させ歯周病のリスクを高めます。さらに歯周病は認知症糖尿病感染症まで引き起こすのです。

今回の記事では、土岐内科クリニックの長谷川嘉哉がシェーグレン症候群について解説します。

この記事を読んで、思い当たる方は、一度血液検査でシェーグレン症候群を評価してもらうことをお勧めします。診断後は、適切な治療対応をすることで特に口腔内環境の悪化を防ぎましょう。

1.シェーグレン症候群とは?

日々の外来でやっていると、好発する中年女性より高齢の方にも見られます。その目で診察すると、統計の数値よりは多い印象です。幸い、高齢の方に発症するケースは原発性であり重症度は低く、怖い病気ではありません。

1-1.疫学的解説

シェーグレン症候群は1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンの発表した論文にちなんでその名前がつけられた疾患です。日本では1977年の厚生労働省研究班の研究によって医師の間に広く認識されるようになりました。

この疾患は、膠原病に合併する二次性シェーグレン症候群合併症の無い原発性シェーグレン症候群に大別されます。

40〜60歳の中年女性に好発し、男女比は1対14。ほぼ女性の疾患と言えます。2011年の厚生労働省患者調査によるシェーグレン症候群のために病院を受診した1年間の患者数は約9,000人、患者総数は約10万人とされています。

シェーグレン症候群を専門とする診療科は、膠原病リウマチ科になります。膠原病リウマチ科の専門医は相当少ないため、シェーグレン症候群が見逃されている可能性が高いです。そのため、潜在的な患者数を含めると原発性、続発性のシェーグレン症候群を合わせて10~30万人の患者が存在するとも言われています。

1-2.主な症状

全身症状もありますが、通常の外来で診られる原発性のシェーグレン症候群の症状は乾燥症状が中心となります。

  • 目の乾燥(ドライアイ):涙が出ない ・ 目がころころする ・ 目がかゆい ・ 目が痛い ・ 目が疲れる ・ 物がよくみえない ・ まぶしい ・ 目やにがたまる ・ 悲しい時でも涙が出ないなど。
  • 口の乾燥:口が渇く ・ 唾液が出ない ・ 摂食時によく水を飲む ・ 口が渇いて日常会話が続けられない ・ 味がよくわからない ・ 口内が痛む ・ 外出時水筒を持ち歩く・夜間に飲水のために起きる・虫歯が多くなったなど
  • 鼻腔の乾燥:鼻が渇く ・ 鼻の中にかさぶたが出来る ・ 鼻出血があるなど。
  • その他:唾液腺の腫れと痛み ・ 息切れ ・発熱・ 関節痛 ・ 脱毛 ・ 肌荒れ ・ 夜間の頻尿 ・ 紫斑 ・ 皮疹 ・ レイノー現象(手足先の冷感や変色) ・ アレルギー ・ 日光過敏 ・ 膣乾燥(性交不快感)など。

私が研修医の時にお世話になった膠原病リウマチ科の先生から教えてただいたことがあります。それは「患者さんが、夜間枕元の水を置いておくほど喉が渇く場合は強くシェーグレン症候群を疑いなさい」ということです。参考になさってください。

Woman with an uneasy look.
肌荒れ、乾燥肌も強く感じる方が多いです

2.原因

抗SS-A/Ro抗体・抗SS-B/La抗体といった自己抗体が存在することから自己免疫応答が関わると考えられますが、その直接的な原因は不明です。遺伝的要素、環境要素、性ホルモンの影響なども関わると考えられています。また、生まれてから満六歳までの間に非常に清潔な環境で育った子供に多く発症するとも言われます。

なお同一家族内に膠原病が発症する率は約8%で、シェーグレン症候群が発症する率は約2%位とされています。そのため、この疾患の遺伝性はないと考えられます。

3.鑑別診断

中年以降の女性が喉の渇きを訴える症状にはシェーグレン症候群ではない疾患もあります。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


3-1.糖尿病

頻度的には、シェーグレン症候群よりも高いです。糖尿病で血糖値が高くなると、「水を飲んで血液を薄めよう」と脳が生理的に反応します。その結果、大量の水分を欲します。その際に、糖質入りのペットボトルのジュースをたくさんのんでさらに血糖値が上がってしまい倒れてしまう人もいます。これをペットボトル症候群と言います。

Sample blood for screening diabetic test
喉の渇きはまず糖尿病を疑います

3-2.加齢変化

糖尿病でもなく、シェーグレン症候群でもなく執拗に目や口の乾燥を訴えられる方がいらっしゃいます。この原因は、加齢に伴う乾燥です。この場合は、治す疾患自体がありませんから、症状に対して対処療法を行います。

4.診断方法

1999年に改訂された厚生省の診断基準が以下です。

(1)口唇小唾液腺の生検組織でリンパ球浸潤がある
(2)唾液分泌量の低下がガムテスト、サクソンテスト、唾液腺造影、シンチグラフィーなどで証明される
(3)涙の分泌低下がシャーマーテスト、ローズベンガル試験、蛍光色素試験などで証明される
(4)抗SS‐A抗体か抗SS‐B抗体が陽性である

この4項目の中で2項目以上が陽性であればシェーグレン症候群と診断されます。

但し、現実には、(1)~(3)の検査は煩雑です。実際の診療では、乾燥症状を強く訴え、血液検査で(4)の抗体が陽性であればシェーグレン症候群として対応します。

5.治療

眼の乾燥と口の乾燥に対して、点眼薬等で対処します。

5-1.眼乾燥(ドライアイ)に対する治療

涙の補充には人工涙液や種々の点眼薬があります。これらを1日3回以上使用します。点眼薬には防腐剤が入っていますので、何回も点眼するときは防腐剤による角膜障害が問題になります。この場合は普通の点眼の後に防腐剤の入らない点眼薬(生理的塩水、ソフトサンティア)で洗い流すか、防腐剤のはいらない使い捨ての点眼薬(ヒアレイン・ミニ)を使う方が良いでしょう。傷害された角膜上皮の再生促進や角膜炎の治療の目的で、ヒアルロン酸、コンドロイチン、 ビタミンA、フィブロネクチンなどを含んだ点眼薬が使用されます。

Woman Pouring Medicine Drops In Eyes
できるだけ防腐剤のない点眼薬を選びましょう

5-2.口腔乾燥に対する治療

  • 唾液分泌の刺戟、促進。唾液分泌を促進するものとして、塩酸セビメリン(エポザック、サリグレン)塩酸ピロカルピン(サラジェン)、アネトールトリチオン(フェルビテン)の適用が認められています。中でも、塩酸セビメリン(エポザック、サリグレン)は今までの薬剤に比べて有用性が高く、約60%の患者さんに有効で患者さんの評価もかなり良いものです。副作用として消化器症状や発汗などが約30%の患者さんにあります。本剤は人により作用、副作用に大きな違いが見られますので、一日1錠から始め、副作用を見ながら1錠ずつ増量するなどの慎重な服用が望まれます。塩酸ピロカルピン(サラジェン)は2007年に保険適用となりました。汗をかきやすいという副作用がありますが、塩酸セビメリンと同様に唾液分泌に有効な薬剤です。
  • 他にブロム ヘキシン(ビソルボン)、漢方薬(人参養栄湯、麦門冬湯)なども用いられますが、これらの薬剤は、患者さんによっては有効です。副腎ステロイド剤も有効で あり、症状に合わせて使用されます。特に、唾液腺腫脹をくり返す時には有効です。
  • 唾液の補充にはサリベートや2%メチルセルロースが人工唾液として使われます。サリベートは噴霧式の薬です。舌の上だけでなく、舌下、頬粘膜に噴霧した方が口内で長持ちします。また、冷蔵庫保存で不快な味が消えます。

6.きちんと対処しよう

現状では根本的にシェーグレン症候群を治癒させることは出来ません。したがって治療は乾燥症状を軽快させることと疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことにあります。目の乾燥、口の乾燥はひどくなると著しく生活の質(QOL)を障害しますので、対策を取りましょう。

6-1.目、口、鼻の乾燥は疾患のリスク

「乾き」から私たちを守ってくれる唾液、涙、汗などの分泌物をつくったり、放出したりする器官を外分泌腺と呼びます。シェーグレン症候群による乾燥症状はそれぞれ、外分泌腺である唾液腺、涙腺、汗腺、及び腟の分泌腺と密接に関係しています。これらの乾燥は、バリア機能の低下につながり、疾患のリスクとなります。

6-2.口腔乾燥は特に注意

口腔内の乾燥は虫歯、歯周病を誘発し、ひいては認知症、糖尿病、脳血管障害、心疾患まで影響を及ぼします。シェーグレン症候群の患者さんは虫歯になりやすいので、口内を清潔に保つことが非常に大切です。治療でなくメンテナンス目的で3か月に一度の歯科受診が必須です。

その他に、唾液分泌を刺激するものとしてガムを噛んだり、レモンや梅干を食べることも効果的です。

Bad breath bacteria
口中が乾燥すると歯周病菌が繁殖し、放置しておくと血管から体中をめぐるようになります

6-3.自宅での対処方法

眼や口の乾燥を誘発するエアコン、飛行機の中、風の強い所、タバコの煙などに注意が要ります。また皮膚に対して、石鹸の使用、頻繁に風呂に入ること、特に熱い湯は良くありません。

7.まとめ

  • 中年女性に好発するシェーグレン症候群は、検査をすると高齢者でも多くみられます。
  • 口や眼の乾燥があまりに強い場合は、一度シェーグレン症候群の抗体検査をお願いしましょう。
  • 処方される薬や目薬とともに、乾燥を防ぐ対策も大事です。
error: Content is protected !!
長谷川嘉哉監修シリーズ