医師が教える人間ドックの選び方。必ずやるべき検査を優先度順に紹介

医師が教える人間ドックの選び方。必ずやるべき検査を優先度順に紹介

ある程度の年齢になると、人間ドック受診をお勧めします。人間ドックは健康診断よりも時間をとって、さらに詳細な検査をするものです。

しかし、人間ドックを受けたことのない方は、いろいろな疑問があるのではないでしょうか。特に内容や検査項目が病院によって違っているので、どの検査を受ければいいか迷われている方が多いと思います。

すでに受けられた方も、クリニックが勧めるままに受診され、「これで全身診てもらったから安心!」と思っていませんか?

実は、医師の立場からすると「ぜひ受けておきたいもの」もあれば「予算があれば追加しておきたいもの」「それを受けるなら他でおすすめしたいもの」があります。

そこでこの記事では、人間ドックで何を診てもらうべきか、優先順に解説します。初めての人間ドックで迷われている方や、再度受診を検討されている方はぜひ参考になさってください。

1.人間ドックと健康診断の違いは?

人間ドックと健康診断の一番の違いは、人間ドックは自分の意志で受けるものであるのに対して、健康診断は法律で義務付けられているということです。健康診断は公費の補助が受けられますが、それだけ最低限だと認識してください。

人間ドックと健康診断では検査をする項目の数に大きな違いがあります。より細かく検査をしたい場合には検査項目が多く用意されている人間ドックをお勧めします。

Doctor Measuring Blood Pressure Of Male Patient
健康診断だけでは心臓や脳の病気、癌を早期発見できる可能性は低いです(兆候がある場合、精密検査を行うことが一般的です)

1-1.検査項目が異なる

健康診断では胸部レントゲン以外には通常はガン検査がありません。生活習慣病をはじめとする検査や疾病そのものの予防を目的にした内容で構成されており、項目数・検査内容ともに簡易なものです。

人間ドックでは、基本的なものはもちろん、多くの臓器を対象に詳しく検査します。たくさんの項目が用意されているので、ご自身で気になる疾患や部位も自由に、集中的に検査できます。

1-2.目的も異なる

健康診断は、「労働安全衛生法第66条に基づいて、労働者に対して、医師による健康診断を実施する義務」です。つまり、労働者は事業者が行う健康診断を受けなければなりません。

一方、人間ドックは自らの意志で、自覚症状の有無に関係なく、身体各部位の精密検査を受けて、普段気がつきにくい疾患や臓器の異常や健康度などをチェックします。多項目にわたって体の隅々までチェックすることが可能なため、健康診断では異常が見つからなかった人でも、異常が見つかることもあります。

1-3.費用と時間に差がある

健康診断をベースに、人間ドックでは項目を追加していきます。したがって、健康診断に比べ、人間ドックでは費用も時間も余分にかかります。費用については、健康診断の場合は、事業主が負担することが多いため、殆どの人が費用について気にしていません。一方、人間ドックでは内容によっては50万円、もしくはそれ以上のケースすら珍しくありません。

2.必ず組み込みたい7つの検査とは

人間ドックで早期に発見したい疾患は大きく分けると、「循環器系の疾患」と「癌」です。循環器系の疾患は特に脳と心臓を重点的に組み込みんでください。一方、癌も頻度の高い順から優先的に組み込みます。具体的には、男女とも胃癌、大腸癌、肺癌を中心に、男性は前立腺癌、女性は乳癌を追加します。

2-1.MRA(Magnetic Resonance Angiography)

脳の疾患をチェックするにはぜひ行いたい検査です。MRAは、造影剤を使用することなく脳全体に張り巡らされている血管だけを描き出すことができます。血管の一部が瘤(こぶ)状に盛り上がった脳動脈瘤や、血管の狭窄による脳梗塞を早期に発見することができます。これで異常がなければ、2年以内にくも膜下出血や大きな脳梗塞になる可能性はかなり低いと判断できます。

Magnetic Resonance Angiography of brain
MRA検査による脳血管投影画像

2-2.心電図と心エコー

循環器系の中でも心臓の疾患をチェックします。安静時心電図では、心臓の虚血性変化、不整脈の有無などが分ります。心エコー(超音波検査)では、心臓の動きを調べます。心臓の大きさや心臓壁の厚さ、心臓壁の運動や弁の動きの状態(弁の狭窄や逆流)、心臓内での異常物の有無等を観察し、心疾患の診断を行います。

Colourful image of homan heart ultrasound monitor
心エコー検査のイメージ

2-3.胃内視鏡

胃の内視鏡検査のことで、食道、胃、十二指腸疾患を観察して胃癌を中心とした病変を見出す方法です。未だにバリウム検査が行われることがありますが、バリウム検査で異常所見が認められれば、結局、胃内視鏡検査を再度行う必要があります。以前は内視鏡を口から入れることが大変な印象がありましたが、最近では、鼻からの胃内視鏡も普及しています。私も、経鼻胃内視鏡検査を体験しましたが、バリウム検査よりも楽だと感じました。これからの時代は、バリウム検査より経鼻胃内視鏡がお勧めです。

2-4.便潜血反応検査

大腸癌の発見のために行います。下部消化管からの出血を見つけるのに適しています。陽性の場合は大腸の病気が疑われるため、内視鏡検査などの精密検査が必要になります。但し、陰性だからと言って100%大腸癌が否定されるわけではありません。

2-5.胸部CT

肺癌の発見のために行います。胸部XP(X線検査)でも肺癌を見つけることができますが、より微細な病変を見つけるためには胸部CTが有効です。50歳を超えたら、胸部XPだけでなく胸部CTがお勧めです。

Lungs
胸部CT画像の例

2-6.腫瘍マーカー

  • 男性:PSA(prostate specific antigen= 前立腺特異抗原の略)

前立腺癌は、初期では自覚症状がありませんが、PSAの測定で早期発見が可能です。前立腺癌の検診をうける年齢の目安は50歳といわれていますが、特に、近親者に前立腺癌の患者さんがいる人は40歳ころから積極的に検査を受けられることをお勧めします。

  • 女性:CA125(Carbohydrate Antigen 125)

CA125は、卵巣上皮から分泌されるムチン性抗原で、卵巣がんの発症及び進行に伴って、高値となるため腫瘍マーカーとして有用です。
*生理中の方は検査値が高くなることがあるのでお勧めできません


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2-7.マンモグラフィーと乳腺超音波

女性の方は乳癌を発見するために行ってください。マンモグラフィは、乳房専用のX線撮影装置、つまりレントゲン検査を行う装置です。乳がんの早期発見に欠かすことのできない、最も有効な画像診断の一つです。ただし、マンモグラフィーで見逃される病変があるので、乳腺超音波も同時に行いましょう。

3.可能なら追加したい5つの検査

家族に同じ病気の方がいる場合は以下の追加も検討しましょう。

3-1.冠動脈MRA

心筋梗塞や狭心症の早期発見のために行います。造影剤を使用しなくても血液を白く光らせ、冠動脈を明瞭に描出することが可能です。冠動脈の狭窄をチェックすることで心筋梗塞による突然死を予防します。

3-2.大腸内視鏡検査

特に、近親者に大腸癌の方がいる場合は便鮮血だけでなく大腸内視鏡検査がお薦めです。

実は便鮮血検査だけでは大腸癌は発見できないからです。私も体験しましたが、肛門に内視鏡を入れるわけですから恥ずかしさはあります。しかし、口から内視鏡を入れるよりは咽頭反射がないため楽かもしれません。50歳を超えたら、2年に一度は大腸内視鏡検査がおすすめです。

3-3.腹部超音波検査

お腹を超音波で調べることを腹部超音波検査と呼びます。高い周波数の音波を皮膚の表面にあてて、返ってくる音波(エコー)を画像化することで臓器や血管の状態を調べられます。腹部超音波検査では、肝臓や腎臓、すい臓、胆のうなどの臓器や血管に異常がないかを調べることができます。

3-4.経膣超音波検査

膣に超音波の器具の先端を入れ、子宮や卵巣の状態を調べます。超音波の器具はつるつるしていて細いものなので痛みはほとんどありません。超音波検査は距離が遠いとよく見えません。膣は子宮や卵巣のすぐ近くですので、おなかの上からみる超音波検査よりよく見えます。子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣の腫瘍などに超音波検査がとても有効です。

3-5.子宮頚部細胞診

子宮癌の検査です。子宮がんには子宮頚部にできる子宮頚癌んと、子宮体部にできる子宮体がんがあります。頚部細胞診では、頚部を綿棒で触って細胞を採取し、悪性細胞がないか検査します。

4.PET検査は必要?

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全身の癌が早期発見できるという触れ込みのPET検査ですが、完全に信頼できるものではありません(画像出典:総合南東北病院

「小さな癌でも発見できる」とすすめられ、PET検査を受けていませんか? 私は値段が高いPET検査を受けるよりも胃・大腸内視鏡検査を確実に行うことが大事だと思っています。

もともと、PET検査は「癌」の転移を含めたがん病巣の広がりや「癌」の再発を見るための検査す。大元の「癌」を見つけるためのものではありませんでしたが、癌検診という名のもとに、マスコミがもてはやして報道したことや一部の検診クリニックの誇大広告によって、「全ての癌が見つかる」と誤解されて広がっていったという実態があります。

部位(臓器)によって、見つけやすい「癌」と、見つけにくい「癌」があり、これがPET検査の弱点です。特に、頻度の多い胃や食道・大腸などの消化管にできる「癌」は、粘膜表面に広がりながら成長していくのが特徴です。

これら消化管の「癌」においては、他の臓器に転移していないような早期では内視鏡検査では簡単に発見できても、PET検査単独での検出は難しいと言われています。

国立がん研究センターのがん予防・検診研究センターがある年の癌検診でのPET検査陽性率の解析を行っており、一年間で癌総合検診を受けた約3千人中、約150人に「がん」が見つかり、そのうちPET検査で陽性となったのは15%に過ぎないというデータが発表されています。逆に言うと85%の「がん」がPET検査では発見することができなかったのです

5.人間ドックの頻度は

検査によって毎年行うことがおすすめなものと、二年に一度で十分なものがあります。二年に一度で良いものは上手に組み合わせると良いかもしれません。

5-1.毎年がおすすめな検査

胃内視鏡検査、便鮮血反応、腹部超音波検査、心電図、心エコー

5-2.二年に一度で十分な検査

頭部MRA、胸部CT、大腸ファイバー、冠動脈MRA

6.まとめ

  • 人間ドックはやみくもに項目を選ぶのではなく、頻度の高い疾患を優先的に行いましょう。
  • 循環器系は、脳の血管病変や心臓の血管病変を検査しましょう。
  • 癌検診は、頻度の高い胃癌、肺癌、大腸癌を中心に男性は前立腺癌、女性は乳癌を検査しましょう。
  • PET検査は値段の割に、検診の意義は低いと思われます。
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