介護認定は変更可?正しい認定がつかない理由と対応法を専門医が伝授

介護認定は変更可?正しい認定がつかない理由と対応法を専門医が伝授

最近、医療介護の現場では患者さんに正しい介護度がつかずに困っています。

「なぜこんなに介護が必要な人が要支援2?」と思う一方で「同じ程度に見えるのにあの人は要介護2?」ということがあったりして、納得がいかないことだらけです。

状態は何も変わっていないのに介護度が二段階も下がったケースもあります。これでは家族もケアプランの修正を余儀なくされます。生活のスタイルを根本的に見直さなくてはならず、費用負担が増えるケースも少なくありません。

しかし、正しい認定がつかないことには理由があるのです。そしてなるべく正しい認定を受けるための知識があります。

この記事では、月に1,000人の認知症患者さんを診て、年間800人ほど介護認定のための「主治医意見書」を作成している長谷川が皆さんの疑問にお答えします。介護認定が思ったよりつかなかったり、突然下げられて困っている方はぜひ参考になさってください。

1.介護認定とは?

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介護認定は介護認定審査会で行われます。調査員が訪問し、心身状況をチェックをした状況調査及び主治医意見書に基づいてコンピュータ判定で一次判定を行います。

一次判定のコンピュータシステムは、認定調査の項目等ごとに選択肢を設け、調査結果に従い、それぞれの高齢者を分類してゆき、「1分間タイムスタディ・データ」の中からその心身の状況が最も近い高齢者のデータを探しだして、そのデータから要介護認定等基準時間を推計するシステムです。この方法は樹形モデルと呼ばれるものです。(出典:要介護認定はどのように行われるか(厚生労働省))

介護認定樹形モデル

その後、訪問調査の結果の中の「特記事項」、主治医意見書の意見に記入されたものを加味して二次判定が行われます。

要支援1 要介護認定等基準時間が25分以上32分未満又はこれに相当すると認められる状態
要支援2
要介護1
要介護認定等基準時間が32分以上50分未満又はこれに相当すると認められる状態
要介護2 要介護認定等基準時間が50分以上70分未満又はこれに相当すると認められる状態
要介護3 要介護認定等基準時間が70分以上90分未満又はこれに相当すると認められる状態
要介護4 要介護認定等基準時間が90分以上110分未満又はこれに相当すると認められる状態
要介護5  要介護認定等基準時間が110分以上又はこれに相当すると認められる状態

2.正しい介護認定が得られにくいケース

介護認定は、日常生活で「身体的な介護」と「認知症による介護」がどの程度必要かを評価して介護度を決定します。中には、どうしても正しい介護認定が得られにくいケースがあります。

2-1.身体的な介護が必要でなく、認知症による介護が中心のケース

アルツハイマー型認知症の患者さんは、運動機能は正常なため身体的な介護は不要なことが多いです。従って判定基準で重きが置かれるのは「認知症による介護の程度」となります。しかし、主治医の意見書に認知症の記載がなかったり、家族が認知症の症状を十分に伝えられなかったり、調査員が十分に聞き取らなかった場合は、正しい介護度がつかないのです。

2-2.一人暮らしの場合

一人暮らしの方で、日常生活動作が低下して介護保険のサービスを導入したい場合に限って、「要介護」がつかなく、より軽い「要支援」が認定されることが多くあります。結果にクレームをつけると、「でも一人暮らしで生活ができてるんですよね?」と言われてしまいます。「一人暮らしをしていても、限界を超えていること」が理解されないのです。

全く同じ状態でも、施設に入所していると介護度が付きやすいからおかしなものです。

2-3.パーキンソン病の患者さん

パーキンソン病の患者さんは状態が良い時と悪い時の差があることが特徴です。調子が良いと「日常生活が殆ど自立」していますが、調子が悪いと「全く動けないで生活すべてに介護が必要」な時さえあるのです。そのため、訪問調査が入るタイミングによって認定される介護度が大きく異なってしまうのです。

3.なぜ正しい介護度がつかないか?

正しい介護度がつかない制度的な理由もあります。

3-1.調査員の質が低い場合が多い

訪問調査は、多くは地域のケアマネ事業所に委託されます。しかし、優秀なケアマネが所属する事業所はそんな仕事をあまり行いません。仕事量に比し委託料が安すぎるため、あまり流行っていない質の低いケアマネが売上確保のために行っているケースが多いのです。そのため、調査票を取り寄せるとあまりにお粗末な記載であることも多々あります。あとでクレームが言えるように、調査員の方の名前と所属は必ず聞いておきましょう

3-2.認定審査会という学識経験者(=素人集団)が判定している

介護認定審査会は、保健・医療・福祉の学識経験者5名ほどで構成されています。しかし、学識経験者というフレーズが曲者です。通常、我々のような専門医は含まれません。認知症や脳血管障害を専門としない一般開業医が中心です。そこに経験知識も不明な歯科医、看護婦、介護士が加わります。まさに学識経験者という名の素人集団が判定しているのです。

3-3.主治医の意見書に左右される

主治医の意見書はとても重要です。本来、調査員や認定審査会の質をカバーするものが主治医の意見書です。残念ながら、主治医の意見書に認知症介護や身体介護について正確に記載されていないことが多いのです。

特に整形外科の先生に主治医の意見書のお願いすることはお勧めではありません。ある程度の年齢になれば、相当数の方が認知機能障害を持っているものですが、残念ながら整形外科の先生は、身体介護だけしか記載できません。

Doctor discussing with patients
介護の制度に詳しい方を主治医にしましょう

4.正しい介護度がつかなかった場合は?

どうしても、介護認定結果に納得できない場合の対策をご紹介します。

4-1.不服申し立て

要介護度の認定が実際と違うと感じた場合には、認定が下りてから60日以内に、市区町村の介護保険担当課に不服申し立ての申請を行うことができます。ただし新しい介護認定の結果が出るまでに数ヵ月ほど時間がかかってしまうため、あまり使われてはいない方法です。

実際、私も「不服申し立て」の相談のために市役所の窓口に行ったことがあります。しかし、役職の偉い方が出てきて、あまり「不服申し立て」はして欲しくない雰囲気が伝わってきました。


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4-2.要介護認定の区分変更申請をする

市役所に睨まれるのも怖いので、現実としては「要介護認定の区分変更申請」をします。変更申請であれば、通常通り30日程度で新しい結果が出るため、要介護認定に納得がいかない方は、こちらの手段を取ることが多いのです。

要介護認定の区分変更申請の理屈は「要介護認定を受けましたが、その後状態が悪化し、現状に合っていないので認定期間の途中ですが認定調査を行って頂く」というものです。

実際は、何も変わっていなくても、あまりにひどい介護認定結果の際には区分変更申請します。そうすると、正しい介護度が認定されることもあるのです。(結構あります)

5.介護度が厳しくなった? 3つの壁とは

この1〜2年、介護度の認定が厳しくなったようです。状態が変わらなくても1段階ずつ介護度が低く認定されているように感じます。

5-1.申請を受け付けない窓口という壁

最近、市の窓口に相談に行っても、「まだ介護申請は必要ないですね!」といって申請さえも受け付けてもらえないことがあります。担当者の理屈は「ご本人さんが『まだ大丈夫だ』といって介護サービスの利用も介護申請も希望されていませんでしたから」というものです。

認知症の患者さんには、介護認定をつけてからじっくり時間をかけて介護サービスの利用を促してもらうことが分かってもらえないようです。

Shocked Mature Business Man Working at Desk
申請すら受け付けてもらえないと、その先に進むことができません

5-2.介護度1という壁

今まで、介護度1であった方が、要支援2に下がることが多く見られます。要支援2と介護度1では受けられる介護サービスの量に違いがあります。「市町村の負担をできるだけ減らしたい?」と疑ってしまいたくなります。

5-3.介護度3という壁

多くの介護者が、特別養護老人ホーム(以下、特養)の入所を希望しています。しかし、2015年度から特養の入所基準が「要介護度3以上」に限定されました。そのため、多くのご家族が介護度3以上を望みます。

そのせいか、介護度3に今まで以上の大きなハードルを感じます。介護度が3以上になると特養に入所できるので、在宅よりも市町村の負担が増えます。やはり「市町村の負担をできるだけ減らしたい?」と疑ってしまいたくなります。

6.正しい介護度を受けるためには

制度的に問題があり、正しい介護認定を受けるのが難しいことが現状です。しかし、以下に紹介する方法で少しでも正しい介護度が付く可能性があります。認定審査の前に努力してみましょう。

6-1.主治医を選ぼう

認知症と身体介護を正しく見てもらえる医師を探しましょう。もっとも良い情報源はケアマネです。ケアマネは多くの利用者を抱えており、どの主治医が正しい主治医の意見書を書いているか熟知しています。役所の窓口に相談するより有益な情報を持っています。

6-2.認定調査にはご家族が必ず立ち会おう

認定調査の際には、必ずご家族が立ち会いましょう。配偶者ではなく子供さん世代の方が有効です。そして「普段の介護内容」「これまでにした病気や怪我」「今、何に困っているか」について伝えるようにしましょう。

6-3.要介護者の前で言いにくいことも、メモで伝える

要介護者のなかにはプライドが高く、困っていることや不自由していることを他人に知られることに抵抗を感じる方もいらっしゃいます。調査員に家族が困りごとなどを伝えること自体を拒否したり、調査当日に家族と違うことを話し始めて調査員が混乱することも珍しくありません。要介護者のこうした気持ちに配慮し、特にメモ等を活用して、調査当日に調査員に手渡しましょう。

7.正しい介護がつかなくて困るケース

間違った介護認定が、利用者さんを苦しめます。従来の介護サービスが受けられずに生活の質が低下するのです。ときに生命的危険に苛まれることさえあるのです。私が経験したり見聞きしたお話しを紹介します。

7-1.一人暮らしで要支援に格下げ

一人暮らしの利用者さんで、介護度1の認定のもと、デイサービスやヘルパーをフルに使うことで一人暮らしを維持している患者さんがいらっしゃいました。しかし、要支援2になったため、利用できる介護サービスが激減。結果として日常生活動作が低下してしまい、健康的な生活を損なうことになったのです。その結果、区分変更申請で介護度2が認定されました。以前より介護度で1つ進行してしまったことになります。

7-2.グループホーム入所中に要支援1に格下げ

グループホームは、要支援2から介護度5の方が入居可能です。訪問調査や主治医の意見書にもグループホームで生活していることが記載されているのに、要支援1と認定されてしまいました。こうなると入所継続ができなくなります。

ご家族の介護力から、在宅に戻ることもできず、いったん自費で入所を継続。その後、区分変更申請で介護度1が再認定されました。

7-3.国民年金のため特養入所を希望されている方

介護力が乏しいため、これ以上の在宅生活の継続は不可能な患者さん。しかし、国民年金のため年金は月額6万円。15万円以上の費用がかかる有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者住宅への入所は経済的にも不可能です。

そのため特養入所を希望して、区分変更申請を繰り返すのですが、介護度3以上がつきません。そのため、特養入所待ちの順番に並ぶことさえできないのです。

全国で特養の順番待ちが問題となっていますが、実は順番に並ぶことさえできない要介護者が急増しているのです。

8.まとめ

  • 正しい介護度が付かないことには理由があります。
  • どうしても納得がいかない場合は、不服申し立てでなく、区分変更申請で対応しましょう。
  • 少しでも正しい介護度をつけるためには、ケアマネに評判の良い主治医を選びましょう。
  • 認定調査の際には、家族が必ず立ち会って前もって用意したメモを調査員に渡しましょう。
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