塩分摂取量の真実・正しい塩をとる一つの知識と高血圧の原因別対処法

塩分摂取量の真実・正しい塩をとる一つの知識と高血圧の原因別対処法

「血圧、上が150ありますね。下も高いです。塩分を控えた方がいいですね」

このように50歳を超える高血圧と診断される人が増え始めます。そこで、血圧を下げるための食習慣として「減塩」を指導されることが少なくありません。

そこで塩分摂取量を気にしだす方が多いです。食事中の塩分量を気にしてみたり、一日の摂取量を忠実に守ろうとしたり…。

しかし、近年の研究では食事による塩分摂取量と高血圧の間には、因果関係のないことがわかってきています。極端な減塩は、ストレスはもちろん他の健康被害をもたらすこともあるのです。

では、どれくらい取ったらいいのでしょうか。

この記事では、神経内科医で中高齢者を毎月1,000名以上外来診療する長谷川嘉哉が、正しい食塩の制限方法、摂取方法、そして高血圧の原因別の対処方法をご紹介します。

1.食塩は高血圧の原因?

健康雑誌を開けば「塩分摂取が高血圧の最大の原因」のように書かれています。

その発端となったのは、1954年にアメリカのルイス・ダール博士が行った調査にあります。ダール博士は鹿児島から青森までを調査。当時、鹿児島の人たちの平均塩分摂取量は14g/日で高血圧の発症率が約20%。北に行くに従って塩分の摂取量が増加するとともに高血圧も増加し、青森の人たちの塩分摂取量が約28g/日、高血圧の発症率が約40%にもなりました。

そのため、「塩分=高血圧の元凶」と結論づけられたのです。何と60年以上も前に行われた「高血圧=塩分の過剰摂取」説がいまだに信用されているのです。しかし、当時の塩分摂取量はあまりに膨大であり、現在当てはめるには無理があります。

実際、この調査結果を受けて1960年ごろより東北地方を中心に減塩運動が始まり、全国に波及しました。おかげで減塩醤油、減塩味噌、減塩梅干しなどが増えました。それで、高血圧が減ったかというと、減るどころかむしろ増加傾向で、高血圧患者は5000万人と言われています。

厚生労働省が生活習慣病予防のために発表しているガイドラインでの塩分の食事摂取基準は、男性8g未満、女性7g未満で、同じく厚労省発表の「平成28年国民健康・栄養調査結果の概要」によると、2016年における成人の1日あたりの塩分平均摂取量は男性で10.8g、女性で9.2gです。

この数字だけを見れば、まだまだ塩分の取り過ぎのように思えますが、2014年にアメリカの高血圧学会誌にニールス・グラウダル博士が発表した論文では、最も好ましい健康結果の人たちの1日の塩分摂取量は、アメリカの推奨基準(5.8g)を大きく上回る6.7~12.6gでした。

昭和初期のように、1日に20グラムも摂っていれば問題ですが、現代の食生活の基準値は過剰摂取と呼べる量ではありません。「減塩が体にいい」と考え、無理に控える必要もないことは各種データから明らかになっているのです。

2.高血圧の原因による分類があった

私は学生時代から研修医時代まで日本の高血圧の権威、名古屋市立大学教授・青木久三先生と御一緒させていただきました。アメリカ心臓学会より高血圧学会の最高賞と言われるチバ賞を受賞された青木先生が提唱された高血圧の分類を紹介します。

2-1.本態性高血圧症

親から子へ受け継がれるもので、これが高血圧患者全体の90%です。

2-2.環境性二次性高血圧

ダール博士が調査した青森のような寒冷地、肥満、アルコール、食塩の過剰摂取、過労などの環境の下に発病するものです。

2-3.基礎疾患二次性高血圧

病気の合併症として出るものです。「環境性二次性高血圧」と合わせて、全体の10%となります。

3.減塩で高血圧が下がるタイプは1%

食生活での減塩で高血圧が下がるタイプは、腎臓障害によって尿に食塩が排出できないために起こる高血圧(基礎疾患二次性高血圧)と、食塩に対する感受性が強いために起こる食塩過食性高血圧(環境性二次性高血圧)だけで患者数は1%程度です。

つまり、99%近い高血圧の患者及び、圧倒的多数の健康な人にとって、減塩は意味のない取り組みというわけです。むしろ減塩が過ぎると、元気が出ない、食欲不振、無気力、精力減退等、様々な問題を引き起こすことにつながります。

青木先生が、「ビタミンの欠乏は特定の病気を引き起こすだけだが、塩の欠乏は命を奪うことになる」と言われていたことを思い出します。

4.とるべき食塩とは

Woman refusing salt
塩を極力取らないようにすると、逆効果が大きいです。しかし何でもとればいいというものでもありません

高血圧に塩分摂取量が関係ないなら、食塩なら何でもどれだけでも食べてよいかというと、そうではありません。結論から言うと、「自然塩を適量に」ということになります。バランス、つまり「あんばい」が大切なのです。ちなみに「アンバイ」は「塩梅」とも書きます。


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4-1.精製塩はできるだけ控える

日本では専売公社時代の1971年に「塩業近代化臨時措置法」の成立で、塩田での製塩からイオン交換膜製塩法「精製塩」(塩化ナトリウム99%以上)に全面的に切り替わりました。この「精製塩」は低コストで製造できますが、本来のミネラルが失われました。

4-2.自然塩がおすすめ

自然塩に含まれるミネラルの成分には、塩化ナトリウム約78%以外に、マグネシウムが6~9%カリウムが約2%含まれています。マグネシウムには便通を良くする効果が、カリウムにはナトリウムを体外に排出する効果があります。

自然塩を取るには、なるべくご家庭で手料理を作ることです。外食やスーパーの出来合いのお惣菜には期待できません。高齢者の方で自炊が難しい方は天然塩使用の個配サービスを利用することです。

4-3.塩を変えたら不味い

当院のスタッフが、いつも使っている自然塩が切れたので化学塩をつかって、炒め物を作ったところ、子供さんが「不味い」と言ったそうです。皆さんも一度、精製塩と自然塩を直接なめてみて下さい。精製塩では塩気のみを感じますが、天然塩ではそれ以外の複雑な味わいが感じられます。これは、マグネシウムが旨味やコクを、カルシウムが甘味を、カリウムが酸味を感じさせるからです。

5.カリウム、カルシウム、マグネシウムで血圧を適正化

薬が必要になる前に、体内のカリウム、カルシウムとマグネシウムの3つのバランスを正すことで、血圧を適正化できる可能性があります。

5-1.カリウム

ナトリウムを排出に導くのが、カリウムです。ナトリウムとカリウムの生体内での適正比率は決まっており、ナトリウム摂取が多い人ほど、カリウムを必要とします。外食が多かったり、味の濃い料理を好む人は注意です。

カリウムは野菜や果物に豊富ですが、忙しいとなかなか摂取しにくく、不足気味になりがちです。

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昆布にもカリウムは豊富に含まれます

5-2.カルシウム

カルシウムの摂取量が不足すると、骨の中のカルシウムは減るのに、血管の細胞中では増えるという現象が起こります。 カルシウムには血管壁を収縮させる働きがあるため、血管が必要以上に縮むと、血圧が上がってしまいます。

5-3.マグネシウム

マグネシウムには筋肉を緩ませる(弛緩させる)作用があります。カルシウムとマグネシウムが1:1の割合でバランス良く存在すると、血管も正しく収縮と弛緩を繰り返し、血液をスムーズに押し流してくれるのです。

6.90%いる本態性高血圧の対処方法は?

内科の診療時に「高血圧気味ですね」と伝えると、多くの患者さんは「若いころは低かったのよ」と言われますが、遺伝的に「本態性高血圧症」の要素がある人は、50歳前後で血圧が上がり始めます。

6-1.生活習慣の改善だけでは本態性高血圧は改善できない

自然塩を摂取するなど食習慣を見直すこと、運動習慣を取り入れていくことは健康的な身体を保つためにすばらしい選択です。ただし、それだけで血圧が下がるとは限りません。というのも、50歳前後になって高血圧の素因が動き出した人は、塩分に気をつけても、散歩を日課にしても、血圧が上がってしまうケースがあるからです。

6-2.時には降圧薬も必要

50歳を超えて血圧が高めになり生活習慣を改善しても血圧が下がらない患者さんに、医師として確実にお薦めするのは降圧薬を飲むことです。週刊誌特集や健康情報を聞きかじった事情通の方は、「血圧の薬は飲み始めると一生飲み続けなければいけない」、「薬漬けになるから血圧の薬は飲まない方がいい」、「そもそも最高血圧の基準値がおかしい」など言います。

たしかに、学会の基準値となっている最高血圧140mmHgを高血圧とするのには医師の間でも異論があります。実際、2000年以前は160mmHgが基準値でしたから。しかし、最高血圧が180mmHgの人まで「そもそも最高血圧の基準値がおかしい」という聞きかじった情報を信じて、「血圧の薬は飲まない」となったら脳梗塞、脳出血のリスクは高まってしまいます。

血圧が高いこと自体が危険な状態ですので、放置せずに治療を受けることが大事です。

6-3.素人判断が脳出血を引き起こす

脳出血
脳出血は、脳の血管から出血してしまう疾患です

私は講演で「専門医を28年やってきた医師のアドバイスと事情通顔の一般の人が言う言葉のどちらを信じますか?」と投げかけ、「遺伝的に高血圧の素因を持っている方は食習慣、運動習慣を変える努力以上に服薬の習慣を付けましょう」とお伝えしています。

実は、私の患者さんで、40代のときに脳出血を経験している方がいます。脳のCT画像を診ると被殻という部位で脳出血が起きたことがわかります。これは脳出血では最も多いパターンです。それをご本人に伝えると、「典型例なんですか? 私?」と驚かれました。

ご本人は40代で脳出血をするなんて特別な状況だったと思っていたからです。しかし、神経内科医の立場から見ると、血圧が高い状態を放置すると出血しやすい部位から脳出血が起きていました。実は、ご本人は半年前まで降圧薬を服用していたのに、周囲から「すぐに血圧の薬を出す医者はヤブだ」と言われて、勝手に飲むのをやめていたのだそうです。

私は講演でも時折、この患者さんのエピソードを話していますが、必ず会場にはギクッとした表情を浮かべる方がいます。

7.まとめ

  • 過剰な塩分制限は必要ではなく、逆に様々な問題を引き起こすこともあります。
  • 食塩摂取は、あくまで「自然塩を適量」が原則です。
  • 生活習慣を改善しても血圧状態が改善しない本態性高血圧の患者さんは、素人判断でなく医師の指導のもと降圧薬の服用も大事です。
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