点滴の効果と使いどころ・無用な投与は避けるべき理由を医師が解説

点滴の効果と使いどころ・無用な投与は避けるべき理由を医師が解説
2018-05-07

体調を崩したときに、病院で点滴を受けると早く治ると思っていませんか? あるいは 「体調不良」で病院を受診したら点滴を勧められて、そのおかげで体がとても楽になったという経験をした方もいるでしょう。

実は、私自身2000年に開業をして驚いたことがあります。体調が悪いと受診した患者さんが点滴を希望されることです。以前勤務していた大学病院や総合病院では、あくまで点滴は「特定の治療を目的として行うもの」で、体調不良に対して行われることはありませんでした。

しかし、現実に「病院に行って点滴をしたら良くなった」という話はよく聞きます。一体点滴は何を行って、何に効果あるのでしょうか? 今回の記事では、正しい点滴に対する知識をご紹介します。

1.点滴の種類は二つ

点滴とは、ボトルやバッグに入れて吊した補液や薬剤を、静脈内に留置した注射針から少量ずつ投与する方法です。投与経路から、大きく2種類に分かれます。

1-1.末梢静脈路(外来でも行える)

腕や脚などの皮下を走る静脈に留置するルート。通常の外来では、腕の静脈に翼状針を刺して行います。手軽に確保できるため頻用されますが、浸透圧の高い輸液を行うと血管炎を起こしてしまうため、高カロリー輸液には適しません。つまり外来で行うような点滴では水分の補充は可能ですが、カロリーの補充は殆どできません。もちろん、点滴の中に抗生剤等を入れることは可能です。

Asian Lady Hand received a Saline Solution injection
よくみる手の甲からおこなっている点滴が、抹消静脈路点滴です

1-2.中心静脈路(主に入院で行う)

上大静脈または下大静脈に留置するルート。これらは体内で最も太く血液量が多い静脈で、中心静脈と称されます。高濃度の薬剤を投与することが可能であるため、高カロリー輸液や、血管炎をきたし易い薬剤(一部の抗がん剤など)の投与に用いられます。

中心静脈カテーテルは大腿静脈、内頚静脈、鎖骨下静脈などから挿入し、中心静脈に留置されるため外来で入れることは稀です。最近では、食事がとれなくなった高齢者に中心静脈栄養を留置するケースも見受けられます。

2.点滴が効果的な状態とは

点滴が極めて効果を発揮する状態があります。外来診療では短時間での点滴を以下のような場合に行われます。

2-1.脱水(食中毒、熱中症等)に対する補液

治療において最も効果的なものは、「足りないものを補う」ことです。食欲不振や悪心で食事がとれないとき、嘔吐や下痢が続いたときなどは身体が脱水状態になっています。そのような水分が足りない状態で、点滴による補液を行うと劇的に効果があります。

例えば熱中症による脱水で運ばれてきた患者さん。意識レベルも低下していましたが、500㎖の点滴を1時間かけて行うと、意識は改善し、結局歩いて帰宅されました。

実際、私自身も牡蠣に当たったことがあります。38度以上の発熱に加え、激しい嘔吐と下痢が続きました。極度の脱水状態であったのでしょう、その時は、1000㎖の点滴をしてもらいました。本当に、驚くほど身体が楽になり熱まで下がってしまいました。

Girl suffering a heatstroke refreshing with a fan
熱中症だけではなく、食中毒や発熱で脱水症状を起こしている場合があります

2-2.細菌感染に対する抗生剤

通常の風邪の原因の80%以上はウイルスです。ウイルスに対しては抗生剤は効果がありません。しかし、残りの20%弱のケースは細菌感染が原因です。通常、緊急の血液検査でCRP(体内で炎症が起こると肝臓で生産されて血液中に流れ出し増加する)が高くなります。当院の場合は、CRPが5以上(正常は0.5以下)ですと点滴治療を勧めます。

発熱をしている場合は、通常の水分摂取量では相対的に脱水状態になっています。抗生剤とともに500㎖程度の補液を行うと、相乗的に効果を示します。


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2-3.抗インフルエンザウイルス薬

平成30年度は、インフルエンザの感染が蔓延しました。その中で、点滴による抗インフルエンザウイルス薬の投与が効果をあげました。製品名は「ラピアクタ」。1回15分~30分ほどの点滴で、タミフル2錠×5日分と同じ効果を得られると言われています。さらに、タミフルとラピアクタの解熱効果を比較したところ、ラピアクタの方が、早く効果が出たという報告も発表されています

通常、経口薬の場合は、服薬後消化管から吸収されてから全身に効果を発現します。しかし、点滴の場合は、開始してすぐに効果を発現します。実際に患者さんたちも、点滴後短時間で解熱、身体が楽になったと言われます。ちなみにラピアクタは、解熱効果はありませんので、熱が下がったことはインフルエンザウイルスの増殖を抑えたことを意味します。

3.点滴が無意味なケース

実は、医学的には点滴の効果がないケースもあります。

3-1.ウイルス感染に対しての抗生物質の点滴

ウイルス感染には抗生物質は効きません。風邪の大部分はウイルス感染なので、風邪に抗生物質の点滴をしても効果はありません。細菌による二次感染を起こしている場合には、抗生物質は効果があります。しかし、CRPが5以下程度の重篤な感染でなければ、抗生物質は飲み薬でも十分効果的です。

3-2.栄養補給目的の点滴

点滴での栄養補給はほとんど期待できません。点滴内には、カロリーのもとになるブドウ糖やナトリウムなどの電解質が含まれています。一般的に、点滴内のブドウ糖は、血管炎や血管痛が起きにくい5~10%ぐらいの濃度が限度です。カロリーは、点滴量500mlで100-200キロカロリーにしかなりません。あくまで、脱水に対する水分補充の効果しかないのです。

3-3.風邪に対しての解熱剤の注射

解熱剤の注射は、29年前に私が医師になったころは、頻回に使われていました。しかし、最近ではほとんど使用されなくなりました。というのも、解熱剤の注射は副作用の危険性が高いからです。

例えば、以前よく使われていた解熱鎮痛剤の注射であるメチロンを例にすると、「ショック、血圧低下、脈拍異常などの重篤な副作用が発現することがある」とされています。適応は「他の解熱薬等では効果が期待できないか、あるいは他の解熱薬の投与が不可能な場合の緊急解熱」となっており、内服薬など他に解熱する方法があれば用いません。逆に内服できる状態にも関わらず使用して副作用を起こしてしまったら、医師が訴えられてしまいます。

3-4.風邪に対してのビタミンの点滴

残念ながら、ビタミンの点滴が風邪に効くという医学的根拠は現時点では明らかではありません。また、ビタミンの点滴を風邪症状で用いることは健康保険では認められていません。しかし、一部の医療機関では、ビタミンの点滴が行われています。きっと、患者さんからの要望が強かったのでしょう。医師たるもの、本当に患者さんの事を考えれば毅然と断りたいものです。

4.点滴は無用な延命にさえなる

高齢で食事がとれなくなった患者さんのご家族から「点滴だけでもしてくれませんか?」と懇願されることがあります。しかし、点滴は無用な延命につながります。通常、食事がとれなくなれば脱水が進行し麻酔がかかったような状態になります。つまり、周囲で診ているほど、本人の苦痛はないのです。さらに脱水により尿が作られなくなり、腎不全を経て静かに亡くなっていきます。

しかし点滴を継続すると、身体自体は生命体として終焉を迎えていても延命されてしまいます。私の患者さんで点滴による延命のため、目が閉じられないほど痩せてからようやく亡くなったケースもあります。家族の精神的な満足のための「点滴」は、患者さんに対して、恐ろしいほどの苦痛を与えてしまうのです。

A patient in the hospital with saline intravenous
終末期においても、抹消静脈路からは補液程度の点滴しかできません

5.まとめ

  • 点滴には効果があるケースと、ないケースがあります。
  • 自己満足のための点滴は、まったく効果がないこともあるのです。
  • 特に食事の摂れなくなった高齢者に対する点滴は、無用な延命で患者さんを苦しめます。
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