講演実績・マスコミ記事掲載実績
2008年3月1日(土)岐阜新聞掲載
素描 認知症家族として
現在、土岐市で認知症を専門とした診療所と介護サービスを提供する株式会社およびNPO法人を運営している。
約30年前、小学校高学年から中学3年生になるまで我が家は認知症の祖父を抱えた家族であった。当時は、世間の認知症に対する理解や社会整備も乏し く、認知症患者さんを抱えた家族の苦労は今以上であった。それに加え、患者さんの「過去の人生をも否定されてしまう苦痛」は推し量れない。祖父の存在が、 家庭内の不和を生むこともあり、認知症が進行する祖父が好きにはなれなかった。「認知症の祖父がいなければ」と思うことも何度かあった。
亡くなる直前の祖父は、たまに訪ねる実の子供達の顔を忘れても長男の嫁である母親の顔は覚えていた。介護者として救われる思いであった。そして祖父 が死んだ時、自分は孫として家族としてもっと何かできなかったのか苦悩した。そのためこの経験を糧に、将来は認知症に関わっていければと考えた。その後、 医師の道を志し、認知症を診る神経内科を専門とした。現在は、認知症専門外来を開き、講演も依頼されるようになった。ここまで、一度も迷うことなく目標に 向かってきたような気がする。ひとえに、あまり好きでなかった祖父のおかげである。
よく、認知症のご家族に聞かれることがある。「認知症患者さんの存在が、孫やひ孫に悪影響を与えないか?」と。「これからの高齢化社会の中で、得ることのほうが多大です」とお答えしている。人間いかなる状況になってもその存在意義が失われる事は決してないのだから。
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