認知症とは
認知症とは?
認知症専門外来を開いていると、最近物忘れがひどくなったという主訴で受診される方が多くみえる。
物忘れと認知症の違いを簡単に説明する。「昨日の夕食のメニューを覚えていますか?」高齢者の方を対象とした講演でこの質問をすると、不安げな顔をされる方が多くみえる。仮に思い出せなくても心配は要らない。
メニューが思い出せないことは、「物忘れ」いわゆる「健忘」であり、病的意義は少ない事が多い。しかし、「食べたという行動自体」が思い出せない場合は、認知症の可能性が高い。つまり内容を忘れる事は問題ないが、行動自体を忘れると問題となる。
一方、認知機能障害が徐々に進行し、幻覚や妄想が出現したという主訴で受診される方もみえる。その場合、残念ながら認知症はかなり進行していると考える必要がある。認知症も早期発見、早期治療が重要である。適切な受診及び診断が求められている。
当院では、初診で見えた患者さんには、頭部CTによる画像検査および質問形式の検査で側頭葉機能および前頭葉機能をチェックする。最近、画像診断に頼る傾向が強いが、認知症の診断においては質問形式の検査が重要となる。残念ながら、すべての検査を行なうには1時間前後は必要であるため、総合病院等の多忙な外来では実施は困難である。そのため、せっかく受診しても早期発見が遅れることもあるようだ。
認知症には段階があります
"認知症患者さん"と聞くと、各人がいろいろなレベルの方を思い浮かべるようだ。認知症はレベルに応じて3つの段階に分ける事ができる。
1番目は、「早期認知症」レベル。このレベルでは、一見すると認知症とは感じられない。社会生活も自立している。一般的に行なわれる認知症検査も正常。しかし、より詳細に前頭葉機能を検査すると低下している状態である。このような方々は、放置すると認知症に進行する。逆にこのレベルで、適切な薬物治療や脳リハビリを行なうと、認知症への進行をかなり防ぐ事ができる。
2番目は、「認知症の中核症状」レベル。認知症の症状は、中核症状と周辺症状に分けられる。中核症状とは、いわゆる物を記憶して、保持して、それを表現する事が障害される。しかし、この段階では、周りのご家族も「また同じ事を言っている」といった程度で"実害"がないため、放置されることが多い。専門医の立場では、この段階で受診していただけると、認知機能障害への対応が可能である。
3番目は、「認知症の周辺症状」レベル。中核症状がさらに進行すると、周辺症状が出現する。周辺症状には、幻覚、妄想、徘徊、人格変化、暴力行為などがある。この中では特に「お金を盗られた」といった被害妄想の頻度が多い。被害妄想は家族内のトラブルになる事も多く、 "実害"が出現する。この段階では周辺症状のコントロールが主体となり、認知機能障害自体の治療は困難となる。さらに周辺症状のコントロールも悪いと在宅介護が困難となり、施設入所も考慮せざる得なくなる。
認知症の社会的問題
現在、急激な勢いで社会の高齢化が進んでいる。それに伴い認知症患者さんの数も増大している。一見正常であるが、前頭葉機能のみが低下している早期認知症の方も含めるとその数は莫大なものとなる。現実に問題になっている事例をいくつか紹介する。
まず、車の運転である。当院でも、認知症のかなり進んだ方が車を運転しているケースが見受けられる。できるだけ運転しないように指導するが、交通事情を考慮すると強制はできない。しかし、余りに危険なケースでは公安委員会に依頼する事もある。高齢者による高速道路の逆走やアクセルとブレーキの踏み間違いなどは、認知機能障害を有している可能性が高い。
次に悪徳業者である。土岐市のようなのどかな町でも多くの方が騙されている。特に早期認知症や、認知症初期の方が危険である。内容が十分に理解できなくても契約行為自体はできてしまう。悪徳業者は情報網持っており、一度騙されると入れ替わりで騙されるケースも見受けられる。これは成年後見人制度を利用して予防することが可能である。ただし、手続きが、面倒である。少し費用を払ってでも専門家(弁護士、司法書士、行政書士等)に依頼されることをお勧めする。
最期に、高齢者が持つ資産の問題である。資産保有が高齢者に片寄っているため、世代間の資産格差が広がっている。高齢者の資産運用は保守的に成らざるを得ない。結果として有効利用が妨げられてしまう。資産の保全および有効利用のためにも認知症を理解した専門家集団による社会整備が必要と思われる。